「どうだ橘、似合うだろう?格好良いだろう?
 惚れていいぞ!」

人の居ない場所を探して、やっと見つけた旧校舎の屋上へ続く階段に腰掛けて一息吐いた。長かった、休憩まで長かった。
2年生の私のクラスは出し物として和風喫茶を営んでいて、予想以上の来客数、慣れない着物での接客に追われ、もうへとへとだ。
ようやく休めると思ったのに、突如目の前に現れた黒マントの男は無駄にテンションが高くてげんなりする。

「そうですねー先輩格好良いですねー」

人の気も知らないで得意げに回転してみせる彼は3年生の東堂尽八。自転車競技部所属の自称・眠れる森の美形。
自分から美形なんて言ってしまうだけあって顔は整ってはいるが、このノリはどうもいけ好かない。

「なんなのだその棒読みは!
 わざわざ見せに来てやったというのに!」
「頼んでません」

私の反応がお気に召さないようで、眼前のヴァンパイアは不機嫌そうな顔をした。
いつでもどこにいても、どこからともなく現れる彼は一体なんなんだろうか、褒めて欲しいなら自分のファンクラブ会員のところへでも行けばいいのに。

「正直者か!でもそういうところも好きだぞ」
「ありがとうございます
 でも私は別に先輩好きじゃないです」
「辛辣!辛辣だな橘!
 さすがのオレも傷付くんだが?」
「鋼のメンタルが何を言ってるんですか」
「まったくツンデレだなぁ橘は」
「...デレたことありましたっけ?」
「近々デレる予定だろう?」
「ポジティブすぎてちょっと引きます、東堂先輩」

牙を見せて微笑んでみたり、悲しげな顔をしてみたり、得意げな顔をしてみせたり。
ころころと表情を変え忙しい彼がヴァンパイアらしいのは格好だけで、中身もヴァンパイアらしければまた違った印象だったろうに、残念だ。

「ところでそれはクラスの出し物の衣装か?」
「はい、うちのクラスは和風喫茶をやってるので」
「とても似合っているぞ橘、家柄着物姿は
 見慣れているが、これまで見た中で一番綺麗だ」
「...ありがとうございます」

いかにも茶屋娘と言わんばかりの格子柄で薄からし色のこの着物のことを言っているのか、歯の浮くような台詞がさらっと出てくることに感心する。
褒められているのか貶されているのかよく分からないが、今日一番の笑顔で先輩は私を見ている。
そういえば今日はカチューシャしてないんだな、と今頃気付いて彼から目を逸らした。

「おっとそろそろミスター箱学結果発表の時間だ、
 そろそろ行かなければな...
 橘のために今年もミスター箱学に
 なってみせるからな!ちゃんと見ておけよ!」
「はぁ...」
「...ミスター箱学になったら
 オレのものになってもらうからな六花」
「え?」
「約束したからなー!」
「ちょっ...!」

言うだけ言って、先輩はマントを翻し階段を駆け下りていく。
台風のように去って行った彼が残して言ったのは、意味深な台詞と私の頬を赤く染めるこの熱だけーーー



ハコフェス!
Before HakoCon side.東堂 / 2017.05.10

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