ーーーつぅかこれ意味ないんじゃナァイ?

賑わう校舎内を看板を持って歩き回るだけという至極面倒な役目を押し付けられた狼男は、終始険しい顔をしたままだった。
もし隣に優しく微笑む赤ずきんが居なかったら、取って食うと言わんばかりの腹ペコ狼に人々は恐怖で震えていたことだろう。

「学祭って在校生ばっかじゃねぇか、
 宣伝になんの意味があんだよバァカ!」
「んー、箱学入学希望者が学校見学に来てるから...
 それ目当てかな?」

勧誘チラシを入れた籠を下げた赤ずきんは、来年新入生として再び箱学へやってくるだろう自分より少し若い子をキョロキョロと探してはチラシを手渡していたが、籠の中のチラシの数はまだ数枚しか減っていない。
それがまた彼の逆鱗に触れたようで、より一層眉間に皺を寄せてガニ股歩行は歩幅を増した。

「ハッ!すっくね!
 そんな奴らすっくねぇだろソレ!バカか!」
「一応自転車部の伝統みたいなものだから
 去年先輩達もしてたんだよ?知らないだろうけど」
「あぁ知らねェな、知りたくもねェよ
 ハッ、くだらねェ」
「まぁまぁ、今後の自転車部の為だから、ねっ」
「チッ!」
「それに...」
「あ?」

伝家の宝刀、自転車部の為。
この言葉を唱えると、狼男は悪態を吐きながらも多少落ち着いたようだ。
本人曰く「チャリ部の為じゃねェ!オレが自転車続ける為だ!」だそうだが、案外根が真面目な彼はイライラしながらもしっかりと自転車部の看板は掲げている。
そんな彼を見上げ、赤ずきんは顔を綻ばせた。

「ちょっとデートみたいで嬉しい
 靖友がジャンケン負けてくれてよかった」
「...そうかよ」
「ね、手繋ぎたい」
「ハァ!?ばっ...宣伝中だろ仕事しろバァカ!」
「そうだよね...
 彼氏と学祭回るって夢だったんだけどな...」

動揺と困惑のさなか歩を止めた彼を尻目に、先ほどまで喜色満面だったが一変して意気消沈する赤ずきんはトボトボと先を行く。
色々な感情が渦巻き葛藤する頭をガシガシと掻き、狼男は再び一歩を踏み出した。目前にある小さな手を目指して。

「ーーっっ、これで満足だろォ
 ...クソッ看板持ちにくいんだヨ」
「ふふっ、靖友」
「あ!?」
「耳貸して」
「んだヨ...」

小柄な赤ずきんに合わせて少し屈んでやると、柔らかい唇が耳にかすかに触れた。
繋いだ手に指を絡ませ小さな声が紡いだ言葉はーーー

「好きだよ、靖友」
「ハッ!んなん知ってるっつーの」



ハコフェス!
Before HakoCon side.荒北 / 2017.05.10

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