「あっちょっと何、それ私の黒板消し!」
「もう一個そこにあるだろ、
 目腐りか!物語終盤のムスカか!」
「目がぁ、目がぁぁ!
 なんて言ってやるもんかバーカ!」
「言ってんじゃねーかバァカ!」

出席番号順に並んでいた席順もひと月もすれば不満が出てきて席替えが熱望されて、朝のHR、念願の席替えのくじ引きが実施された。
一番前の席だった私は期待に心躍らせ箱の中から一枚の紙を取り出すと、番号は24番。
やった、一番後ろの席だ!
うきうきと机を持ち上げ引き当てた場所に移動して、椅子に腰掛け教室を見渡すと全体を一望できちゃう。なんて素敵な席なんだろう!
真ん中の列なのが少し残念ではあるけれど、一番前から一番後ろだ、大出世に大満足です。

「一番後ろ引けてお互いラッキーだったね、
 お隣さんよろしくね!」

ガタガタと音を立たせて移動してきた隣の席の人に誰かも確認せず笑顔で声をかけると、そこには視界に入れたくない銀髪が居た。

「げっ、うそ隣黒田なの...
 人違いでした、やっぱりよろしくしなくていいです」
「ハァ?なんだよその態度、オレが隣で嬉しいだろが
 正直に言えよ、千歳チャン?」
「はぁ?自意識過剰も大概にしなよね、
 エリート気取りめ名前で呼ぶな」

幸せ気分も急降下、隣の席にドカッと座る銀髪はニヤニヤしながら話しかけてくる。
1年のときから繰り返されてる言葉の応酬は今年もまた回避できないみたいで、っていうかなんでまた今年も同じクラスで更に隣の席になっちゃうのかな。
ただでさえ同じ部で顔を合わせなきゃいけないのにクラスでもずっと一緒だなんてとんだ苦行だ。
黒田風に言うとしたら、私は悟りを開く前のブッダか!と言ったところ。なにこれ別に上手くもなんともない、黒田のセンスって本当に残念。
私が夢見がちなタイプで隣のアイツを嫌いでないなら、やれ運命だ宿命だの言って喜んでただろうに実際のところ思うのは、呪いだ祟りだ災厄だ。
腐れ縁なんて言葉もあるけど、そんな言葉で片付けないで文字通り縁が腐ってしまえば文句はないのに。

「お、早速そこは仲良くなったみたいだし、
 今日の日直はそこの白黒コンビに決定な」
「ちょ、嘘でしょ先生、変な名前つけないでよー!」

ーーーそんなことがあって話は冒頭に戻るわけです。

「黒田邪魔!」
「お前が邪魔なんだっつーの!」

不名誉な称号を得て、更に今日は日直だなんてついてないにも程がある。日直の仕事といえば、毎時間の号令に、汚れた黒板の掃除、それから日誌の記入。
席順に進むはずの日直が、まさか自分から始まるとは思っていなかった。だって真ん中の後ろの席だよ?こんなところから日直担当が進むなんてきっと誰も思わない。
全ては黒田のせいだと責任転換したとしても、日直に任命されてしまった以上、仕事は全うせざるを得ないわけで、こうして今私は黒板消しを片手にチョークの粉と邪魔な黒田と格闘している。

「つーか白崎、上まで手ぇ届いてねぇし
 消して下さいって言えば消してやってもいいけど?」
「黒田のせいで日直にされたんでしょ?
 むしろここは全部オレにやらせて下さいって
 言うべきじゃない?」
「何でオレのせいだよ、
 お前が話しかけてきたのが悪いんだろうが!」

そんな水掛け論を繰り広げながら黒板消しを持った手を出来うる限り伸ばしてみるけど、上に書かれた文字は消せそうにない。悔しいけど指摘の通りだ。
だからと言って黒田に消して下さいなんて言いたくないし、文字に目がけてジャンプするという苦肉の策を講じよう。これならどうにかギリギリ消せそうだ。

「黒田のばーか、私でも消せるもんね!」

得意げに横を見ると黒田はやけに私の近くにいて、びっくりして怯んでいる間にサッサと私の上の文字を消していく。舞い落ちてくるチョークの粉、頭上では黒田が悪い笑みを浮かべながら私を見下ろしていた。

「おせーんだよ、バーカ」

じゃあ最初からやればよかったじゃん不親切なヤツ!
そう思ったのが言葉にも出ていたらしく、黒田は私にありがとうも言えねーのか可愛くない奴!なんて返してくる。

「いいから早く消してくんねーかなー
 授業始まるぞ、白黒コンビ」

そんな喧騒をしている間にチャイムが鳴ってしまっていたようで、いつの間にか教卓の横では腕を組んだ先生が待ち構えていた。
当然クラスメイトは全員着席していて、視線は私たちに向いている。

「だから先生、そんな名前で呼ばないでってばー!」

私の悲痛な叫びと共にクラスはドッと笑いに包まれた。
幸運だったはずの席替えが、こんな不幸を呼び寄せるだなんて。飄々と席に戻っていく男の背中を見て、私は更にアイツが嫌いになったのだった。



モノクロ*ノーツ 02
白黒コンビ / 2017.07.01

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