さっきと同じドリップコーヒーもあるっつーのに、豆から淹れようとコーヒーミルまで引っ張り出してオレはどんだけ浮かれてんだか。
ぐるぐる取っ手を回すと、出てくる粉からふんわりと芳ばしい香りがする。
やっぱコーヒーは挽きたてが一番ッショ。
ペーパーフィルターの隅をちまちま折って、丁度沸いたドリップポットの火を止める。あたためておいたサーバーとドリッパーに折ったペーパーをセットして、ミルの小さな木製の引き出しから挽いた粉を取り出し、そこに入れた。
ちょっと細かく挽きすぎたッショ?まぁいいか。
熱々の湯を粉全体にそっとかけて、20秒蒸らす。それからゆっくり優しく少しずつそれに湯を注ぐと、上がってきた湯気と共にコーヒーの匂いがキッチン内に充満していく。いい匂いだ、この豆当たりだったッショ。
千歳はこのコーヒーを気に入ってくれるだろうか、落ちていく黒い雫を見つめながら、オレはさっきシャワールームに押し込んだ女のことを考えていた。
色々なアクシデントが重なって起きた昨夜の事件。
碌なことになんねぇ予感しかしなかったはずなのに、オレは今ご機嫌に鼻歌なんか歌っちまって、早く千歳が風呂から上がってこねぇかなとか思ってる。
沢山言葉を交わしたわけでも沢山肌を重ねたわけでもない、だから尚更いま千歳のどうでもいい日常の話とか、例えば箱学のときの話だとかを聞きたい。
もっと知りたい、千歳の色々を。ついでにロードに乗ってる兄貴のことも。目覚めた千歳と目が合ったあの時ワンナイトラブでしたなんて言わなくてよかった。
これで終いだなんて、オレは嫌ッショ。

サーバーの中の黒い液体が8割ほどを占めたところでドリップポットをコンロに戻して、ドリッパーはシンクの中に置いておく。
ティーカップは何がいいか、ジノリ?コペンハーゲン?やっぱイギリスらしくウェッジウッドっショ、あのブルーのやつが千歳に似合いそうだ。
食器棚から目当てのカップとソーサーを取り出してポットの湯を少し注いでカップを温めておく。コーヒーが少しでも冷めないように。
ちょうど準備が整ったところで、廊下のほうから物音がした。キッチンから出てリビングの扉を開けると、オレの部屋に戻ろうとしている千歳の姿が。

「千歳、こっちッショ」

そう声を掛けると、栗色のショートボブヘアを揺らしペールブルーのシャツワンピースを身に纏った千歳がオレを振り返る。
さっきまでとは雰囲気の違う、少し幼くなった千歳はオレの名を呼び微笑んだ。つられてオレも千歳に微笑み返したが、オレは上手く笑えてただろうか。
キモいって思われてなきゃいいんだがーーー



Jack spider 13
grind the beans / 2017.07.02

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