「千歳...?」

怒られるだろうと思って語った昨夜の情事、半分を過ぎたところで千歳はその小さな手で顔を覆った。
どうしたんショ、と声を掛けたが首を横に降るばかりで返事はない。
そういえばさっき服がどうの言ってたな。オレの目にも刺激の強いそれは隠してもらうほうが好都合、すぐにシャツを準備しよう。クローゼットを開いて下から2番目の引き出しに確かしまってあったはず。

「あー...ひとまず服着るッショ?もうすぐ昨日の服の
 乾燥も終わるけど、よかったらこれ、着とけよ」

取り出したYシャツのボタンを外して肩に掛けてやると、千歳は何も言わないままモソモソと袖を通し俯いたままボタンを留める。チラッと何かピンクのものが見えた気がするが、気づかないフリして視線を逸らした。
オレのシャツは細身だし、サイズ的にも大きくねぇから期待はしていなかったが、やはりそこは男と女、根本的なサイズが違う。肩は余って丈は長く、袖は千歳の手を隠した。
ハッ、まさかこれが萌え袖か...?
小野田の手紙に書いてあったッショ...!
そうだついでにあれも持たせれば、

「ぬるくなっちまってっかもだけど、これコーヒー」

自分で飲もうと持ってきた白いマグを千歳に手渡す。
これで完璧、後ろのイギリスっぽい風景も相まってグラビアの1ページにあってもいい仕上がりッショ!
って何やってんだ裕介、一人で盛り上がって恥ずかしい。千歳に気付かれてないのが幸いか。

「...Yシャツにコーヒーってなにそれ、
 裕介くん乙女チック」
「乙女じゃねぇ、オトコのドリームッショ!」
「ドリームって、ふふっ」

気付かれてたっショォ!
黙って俯いてたと思ったら千歳はいつの間にか笑ってて、マグを持った萌え袖に笑顔っつーのは中々に悪くない。千歳の笑い声に混ざって向こうから乾燥機が止まった合図がピーと鳴る。

「笑い過ぎだろ千歳...」
「だって、
 こんな可愛いことされるなんて思わないじゃん」
「あーもーいいから!乾燥終わったしシャワーでも
 浴びてくればいいッショ!ほらこっちだァ」
「えー、せっかく着たのに?」
「んなネタひっぱんな千歳、早く行けっショォ」

笑われ過ぎて居たたまれなくなって、マグを奪い取り千歳の手を引いて部屋を出た。シャツから覗く生足を意識しないようその背を押して、シャワールームに千歳を押し込む。
乾燥機から千歳の服を取り出して新しいタオルと一緒にそっと置き、バタンと扉を閉めるとさっきまで憂鬱だった気分が一気に晴れて、オレもつい笑ってしまった。

「クハッ、しょーもね...」

会ってまだ24時間経ってねぇっつーのに、前から千歳を知ってたみたいな不思議な気分、これは一体何なんだ。

ひとまずそれは置いといて、
熱いコーヒーでも淹れ直そうか。



Jack spider 11
lukewarm coffee / 2017.06.14

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