さすがに千歳も覚えてんショ...?」
持っていたマグカップは机に置いて、その前の椅子に腰掛けると、バツが悪そうな顔をしながら彼はポツポツと昨夜のことを語り出した。
全く覚えていないと思っていたのに彼の話を聞いていると何となくだけど、先の展開が読めてくる。
「...したらおまえの兄貴が
プロロードレーサーだって言うから...」
そうそう、兄ぃの話をしたらロードの話で盛り上がって。東堂くんの話のあと、たしか山神物真似したんだっけ。それでお酒こぼしちゃって、彼の家に誘われて。
それからーー−
「んで服渡す前に脱ぎ出して...
オレは止めたんショ...?」
視線を合わせず、彼の声はどんどん小さくなっていく。
あぁ、彼が覚えてないって言ったのは、これを隠す為、ひいては私の為だったのかもしれない。不器用な優しさを感じながら耳まで赤くなった彼を黙って見つめる。
一瞬脳裏に浮かんだのは、快楽に顔を歪め私を見下ろす彼の姿。目元と口元のほくろがセクシーで、緑髪の先が私の肌に触れて少しくすぐったかったのを覚えてる。
『千歳...っ!』
記憶の中の彼は切迫詰まった声で私の名前を呼んだ。
断片的に思い浮かんでくる昨夜の彼との記憶は芋づる式に、どんどんフラッシュバックする。鮮明に思い起こされる昨夜の醜態に血の気が引いた。
あぁそんな顔をしないで裕介くん、謝るべきはどうやら私だったみたい。
その上たしか...初めてだって言ってたような...
そう、だからあんな早く、初めてってみんなそういうものだよ。なんて慰めは今言うべきじゃないから心にしまって。
そこで話は終わりだったら良かったのに、脳の片隅にまだ続きがあるような気がする。
ーーーねぇ、もう一回
あのあと私は、確かにそう言ったのだ。
Jack spider 09
onece more / 2017.06.01
onece more / 2017.06.01