ロードの話となれば会話が苦手なオレでもどうにかなるもんで、思いのほか盛り上がり酒も進む。
エールからオレもサイダーに飲み変えて、飲んだことがないという白崎に甘めのペアサイダーを薦めた。洋梨の果実酒はことのほか口に合ったようで、林檎酒である普通のサイダーより気に入ったと笑って白崎はどんどんグラスを空にしていく。

「湘南のプロチームってことは、
 もしかして兄貴は高校...」
「箱根学園だよ、やっぱり有名?」
「そりゃ箱学は自転車競技部の名門ショ」
「箱学の自転車競技部は凄いよ、
 部室からしてVIP待遇だもん!
 自転車部ずるいなって皆言ってたし、
 私も思ってたなぁ。懐かしいよ、箱学」
「白崎、サン...?も、箱学出身なのか?」
「千歳でいいよ、裕介くん
 そう、兄ぃに勧められてね
 わりと家から近かったし、留学制度もあったし」

そういえば湘南といえば神奈川、神奈川で自転車といえば、と連想したのは最後のインハイで戦ったあの学校で、まさか目の前の女までその学校出身だとは予想だにしなかったが。
つかサラッとオレまで裕介呼びしてるしリア充やべぇな、すげぇナチュラルな名前呼びッショ。
何回生か聞くの忘れてたが、同い年だと仮定すると、あいつらと同窓だったりするんだろうか。

「じゃあもしかして
 福富とか東堂とか知ってたりするんショ?」
「福富くんって自転車部主将だった福富くん?
 2年の時同じクラスだったよ
 東堂くんはアレだよね、山神の」
「クハッ!山神!」
「自分でよく山神って言ってたけど、
 どういう意味なんだろ?
 ファンの子は喜んでたけど、あの指差すやつ」
「クハッ...あいつ学校でもそんなんだったのかよ...」
「東堂くんと知り合いなんだ?世間は狭いねぇ」

案の定同い年だったようで、懐かしい名前が千歳の口から出てくる。今でもちょくちょくメールを寄越す自称ライバルの姿を思い出して笑いが止まらなくなった。
レースん時だけじゃなかったのか、馬鹿だな東堂。
最期に会ったインハイから半年と少ししか経っていないのに酷く懐かしく感じるのは距離が離れているからなのか、環境が変わったからなのか...きっとどっちもショ。
あの蒸し暑い夏のノスタルジーに浸りそうになるが、脳裏に浮かぶ山神が全てを笑いに変えていく。
やめるっショ東堂、笑い過ぎて腹が痛い。

「あぁ、世間は狭いなっ...クハッ!山神っ...」
「笑い過ぎじゃない裕介くん、ふふっ
 ...天はオレに三物を与えた!!箱根の山神
 天才クライマー東堂とはこの俺のことだ!!」
「ブハッ!...ゲホッ...クッハ!
 なんで覚えてんだぁそんなん!」
「あはは!
 いやぁ、友達が東堂くんファンで...裕介くん大丈夫?
 タオルあるよ、はいどうぞ...あっ」

唐突な山神物真似に不意を突かれ、思わずちょうど口に含んでいたサイダーを吹き出してしまった。特別似ていたわけじゃないが例の指差すやつまで再現されて笑わないわけがないッショ!
物真似した本人も笑いながら、鞄から取り出したタオルを差し出してくれる。いい香りのするハンドタオルで遠慮なく口元を拭いていると、千歳の伸ばした腕がまだ大して口を付けていないグラスに接触し、中に入っていたサイダーが千歳の服の胸元から腹にかけてぐっしょりと濡らす。

「タオルでどうにかなるレベルじゃ...なさそうだな」
「あー...どうしよ、あー...裕介くんが笑わせるからぁ」
「オレのせいじゃないショ!
 千歳が東堂の真似なんかするからだろ?
 あーでもアレだな...服シミになっちまうし...
 オレんち、来るかぁ?ここから近いんだ」



Jack spider 05
nostalgia / 2017.05.27

←4 back next 6→
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -