「巻島裕介、ショ」

同じ日本人同士よろしくね、と目の前の女は微笑む。
こういう場に慣れてる感じっショ、オレと違って。
閉鎖的な日本から外の世界へ飛び出していくヤツってのは往々にして社交的で、コミュニケーションが苦手なオレと同じカテゴリでくくるには憚られるモンがある。
一言で言えば『なんか苦手なタイプ』ってやつだ。

「じゃ、あとは日本人同士で楽しめよ!」

誰かが何喋ってんのかわかんねーとか言っているのが聞こえたが、ただの自己紹介だと弁解する前にマシューたち6人は別テーブルへ移動していく。
ちょ、初対面で即二人きりとか...
それはいくらなんでもハードル高過ぎッショ!
前持って仕組まれた罠なのか、たまたま6人の気が合ってあぶれたオレらが切り捨てられたのか、目の前の女も急な展開に驚いているように見えた。
そりゃそうだ、日本人ってだけの理由でこんなキモい男と二人きりにされんだから嫌にもなるショ。
ちょっと世間話だけして、ここは早々に別行動という名の解散をするのがベストなんだが。

「あー、えっと、巻島くん?とりあえず乾杯しよっか!
 二人の出会いに乾杯〜!なんちゃって」
「クハ...乾杯ショ」
「巻島くんは何でイギリスに?ご趣味は?
 ...ってなんかお見合いみたいだね」

やっぱりコイツなんか苦手ショ...
兄貴の仕事関係の仲間と飲みに行くと必ずこんな奴がいるなとふと思い出した。
もしかして既に出来上がってんのか?少し頬が赤くなってる気がしないでもない。
乾杯したグラスの中のサイダーを一気に喉に流し込み、白崎千歳と名乗った女は笑顔でオレに訊ねてくる。
駄目だ、碌なことになんねぇ予感しかしないッショ...

「兄貴がこっちで独立してて、
 その手伝いする為にこっちに進学したんショ
 隣のストリートのRENって服屋、知ってるか?
 あれが兄貴の店ッショ。これショップカード」
「ありがとう
 この辺りはあんまり来ないからわからないけど
 今度行ってみようかな」
「クハッ、学生に優しくない価格設定だから
 気を付けたほうがいいッショ」
「あーそれは残念、貧乏学生は辛いやぁ」

合間でさりげなく次のドリンクを注文しながら、にこやかに会話を続けられるのは一種の才能なんだろう。オレには無理ショなんて思いながら、いつも持ち歩いている兄貴の店のショップカードを財布から取り出して、テーブルの上、白崎の前に差し出した。
高級感のある金箔押しのロゴを指でなぞり、カードの両面とも確認してから丁寧に鞄へしまう所作は、 最初の印象とは違って美しく見える。
あぁオレも少し酒が回っちまってんのかもしれない。相手のペースに合わせて飲んだエールのジョッキは、もう1/3ほどになっていた。

「巻島くんは兄弟はお兄さんだけ?」
「日本に妹もいるッショ」

運ばれてきたサイダーのグラスを受け取ると、一口だけ口にして白崎は尋ねる。
留学の経緯からの兄貴の話の流れはイギリスに来てから何度もしたが、そこから他の兄弟の話に持っていかれるのは初めてだ。
イレギュラーは得意なほうだが会話となると話は別らしく、オレは想定外の質問に端的な答えしか返せなかった。これだから会話が広がっていかないんだと兄貴に注意されたこともあったっけか、どうもその癖は治らない。

「そうなんだ、私も日本に兄がいてね〜
 湘南でプロロードレーサーしてるんだけど、
 留学するならフランス行けって煩くて
 大変だったんだよ、今でもたまに、」
「プロロードレーサー?」
「あ、ロードバイクって自転車わかる?あれの」
「オレもロード乗るんショ!
 湘南のプロチーム...LEON?」
「そうそう!そっか巻島くんはロード乗りなんだね、
 初めてだな兄ぃ以外でロード乗ってる人に出会うの」

まさかここでロードの話題が出てくるとは夢にも思わなかった。ジョッキの中身を飲み干して、丸テーブルに前のめり気味になっちまうのもしょうがない。
兄貴がプロロードレーサー?なんだそれドリームッショ!凄すぎッショ!羨ましいッショ!
さっきまで苦手だと思っていた相手が急に女神のように見える、オレの目はどうかしてんのかもしれない。



Jack spider 04
cheers / 2017.05.26

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