ーー−たった十数時間前の出来事だ。

「裕介!今日これから空いてるかい?」
「ん、まぁ空いてるっちゃ空いてるけど」
「おっそりゃいいや!
 こないだ言ってた裕介の家の近くのパブ行かないか?
 中々良かったってアビーが言うから、
 みんなで行くことになったんだ
 たまにはこういうのにも付き合えよ!」
「わかった、わかったから、離せ苦しい!」

その日最後の講義が終わって机の上のなんやかんやを鞄に押し込めてたら、同じゼミのマシューが声を掛けてきた。
日本にいるときだったらオレに声を掛けてくる奴なんて部の奴らか東堂くらいなもんだったのに、お国柄なのかこっちじゃ割と声を掛けられることがある。
最初は気後れしてたもんだが、断っても断っても誘いは減ることを知らず、しょうがねぇと一回渋々参加してみたら案外悪くないもんで、それ以来都合が合えば誘いに乗ってやっていた。
まぁ大体大学のあとは兄貴の手伝いに行ってるから都合が合うことは滅多になかったが。

「じゃあ19時に例のパブな
 一回家に帰って着替えてこいよ!
 とっておきの一張羅にな」
「あぁ19時な、了解だ」

ここで気付くべきだった、
飲みに行くだけなのに着替えて行く必要性に。
その時は特に何とも思わず、約束の19時まで時間もたっぷりあったし、言われた通り帰宅し着替えを済ませた。
歩いて10分もかからないが、余裕を持って18時45分に家を出る。日本人は時間前行動だと笑われるんだろうが、これがオレのスタイルだからしょうがない。
街灯に照らされる石畳をゆっくり歩いて目的地を目指す。春になってきたとはいえ、日が沈めばまだ肌寒い。ストール巻いてきて正解だったッショ。
目当ての店に着いたのは約束の時刻の5分前、カランカランと音を立たせ重厚な木戸を開くと既にそこにはマシュー達が居た。

「裕介が来たぞ、おーい、こっちだ」
「やっぱり日本人は時間より早く来るんだな」
「喜べ裕介、お前のためにいい席準備してあるぞ」

既にエールのジョッキを手にした奴らが上機嫌で手招きをする。いつも時間ぴったりか少し遅れるような連中が何故先に始めてるのか違和感を感じてみれば、なにやら見慣れない顔が数人居る、しかも女だ。

(ハァ?女?なんで女がここに居るんショ?)

男が4人、女が4人、男女が混ざってパブで飲む。
これはアレか、まさかドラマとかでよく見るアレなのか?こんなの聞いてないッショ!

「言ったら来ないと思って
 集合時間少し遅く伝えたんだ、悪いな裕介」
「裕介のために日本人連れてきてもらったぞ、
 喜べよ!」

重い足取りで招かれたほうへ行く。
肩を組まれ耳打ちしてくる野郎どもに一発蹴りでも入れてやりたいところだが、多勢に無勢。ここは諦めて折れるしかなさそうだ。

「こんばんは」

周りに倣ってエールを注文したところで、丸テーブルの向かいの女に声を掛けられた。久々に聞く日本語で。

「はじめまして、私は白崎千歳。あなたは?」



Jack spider 03
blind date / 2017.05.21

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