物音を立てないようにそっと扉を開けると、ベッドの上の女からの視線が刺さった。
さっきまで横たわっていたはずの身体を起こして、一言で表すと、無。笑うでも泣くでも怒るでもなく、ただただ無表情でこちらを見ている。
...怖ぇ。
どうする裕介ぇ、最善の一手はなんだ、考えろ!

「...おはようございます」
「...はよ」

ーーー思考の甲斐もなくあっさりと先手を打たれ、ありきたりな返事を返した。
昨日の夜は気づかなかったが改めて見ると女は整った顔立ちをしていて、栗色のショートボブが日光を浴びて艶やかに光る。一糸纏わずシーツに包まる姿を直視出来ない。なんて格好ショ、どうせなら丸出しの背中も隠してくれ。

「つかぬことをお聞きするんですが、えっと...
 昨日は...その...覚えてなくて...
 私はどうしてこんな格好に...」
「あー...オレもあんま覚えてないんショ」

...言っていいのか?いや黙っておくべきか。
何もなかったと嘘をついたほうが彼女の為か、包み隠さず話してしまってこの葛藤から解放されるか。
いやいやいや、言えるワケねっショ、ワンナイトラブでしたなんてオレの口から言えっこねッショ。
ぐるぐる頭ん中回る昨夜の走馬灯、息をするみたいに出たのは『覚えてない』の言い訳常套句だった。
あー...やっちまった。
でももう言っちまったもんはしょうがねぇよな、いやでも今ならまだ引き返せるんじゃないのか裕介!
正直に言えば許してくれ...る目付きじゃねぇわ。嘘を隠し通せるタイプじゃないっショ、どうすんだオレ...

「服を、その」
「え?服?...あっ、あぁ服、服な...服なら昨日
 汚れちまったろ?だから洗濯して今乾燥機に...
 あぁちゃんと品質表示通りに洗濯したッショ
 昨日兄貴がアパレルの仕事してるって言ったよなぁ?
 オレそれ手伝ってっからそういうのはちゃんと
 してるし、変な仕上がりにはなんねーと...思...」

失言に気付いたときにはもう時既に遅しなワケで。
一瞬でバレる嘘なんか最初から吐くもんじゃねぇ。
大きな犠牲を代償に、オレは一つの教訓を得た。
ぎごちなく笑ってみせたが、笑みを返す眼前の女の目は笑っていない。
オレ、終わったっショ...

「改めて昨日のこと、聞いてもいいかな?」
「...はい」



Jack spider 02
liar / 2017.05.20

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