目が覚めると、知らない場所に居た。

やけに高い天井、眩しい日差し、薄紫のシーツ。
体を包み込むような柔らかいベッドからはふんわりと優しい香りがした。
一人で寝るには少し広いセミダブルのベッドからゆっくり体を起こして辺りを見回す。
一人暮らしの自分の部屋の2倍はありそうな広い空間に、大きな格子窓、ナチュラルウッドのフローリング、午前10時20分を指す白の壁に設置された四角い壁時計、ベッド横の背の高いルームライトが洒落ている。
...やはりまったく見覚えがない。
まさか、と思って恐る恐る視線を下ろすと剥き出しの双丘が、慌ててそれを隠すようにシーツを押し当てた。

(えっ...と、昨日は確か...?)

日本人も来るからとかなんとかいって大学の友達に飲みに連れ出されたんだっけ。言われた通り日本人はいた、緑色の長髪を軽く結わえた細長い男が一人。
恐らく彼も友人に引きずられてきたんだろう、きょろきょろ泳ぐ目線が印象的だった。

「...あ」

音もなく部屋の入り口の扉が開くと、白の大きめなマグカップを持って件の男が現れた。
何故か右腕だけ青い首元の広い黄色と緑のボーダーのシャツと、ゆったりとしたオフホワイトのスウェットを着用した彼は、ベッドの私と目が合うとバツが悪そうな表情を浮かべ、昨晩みたいに目を泳がせる。

「...おはようございます」
「...はよ」
「つかぬことをお聞きするんですが、えっと...
 昨日はその...覚えてなくて...
 私はどうしてこんな格好に...」
「あー...オレもあんま覚えてないんショ」

そこで途切れた会話は続くことなく、部屋の中は重い空気に包まれる。
扉の前で立ち尽くす彼は何度か言葉を発そうとしていたが、肝心のそれは出てこなかった。
何があったのかは記憶がなくても何となく察せるし、後悔したってしょうがない、彼を責めたところで起きてしまった事象は覆らないのだから。
そんなことより今一番大事なのは、まず服を着なければいけないということ。
...話はそれからだ。



Jack spider 01
amnesia / 2017.05.07

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