「あれぇ、こんなところでどうしたんですか?
 荒北さん、白崎先輩」

重ぇクーラーボックスを抱えて扉から出ると、目の前にチャリに跨った真波が居た。
どうしたもこうしたもねェ、てめェこそなんでここにいんだ、こっちが聞きてぇよ。
予想外の真波の登場に千歳は瞳を泳がせる。落ち着けバカ、こゆのは平然としてたほうがバレねんだよ。

「ァア?見りゃわかンだろ、荷物運んでンだよバァカ!
 おう真波、重ぇんだよコレ、手伝え」
「あー...オレ今自転車乗ってるんで無理です」
「チッ!つーかテメェ、
 室内練にも出ずに何してんだァ?」
「坂があったのでつい...
 あ、今日箱根峠行くんですよね?楽しみだなぁ」
「ハァ...これだから不思議チャンはよぉ...
 25分正門前集合だァ、さっさと行けボケナス」
「ははっ!...あ、白崎先輩、ジャージのチャック
 全部閉めたほうがいいですよ?
 じゃ先行きますね、荒北さんまた後で!」

ヘラヘラ笑いながら千歳の首元指して、真波はペダルに足を掛けると颯爽と去って行った。
...台風みたいなヤツだな、チャック閉めろって何だよ人のモン勝手に見てんじゃねーぞ。

「アイツちょっと自由過ぎんだろ、いくらなんでもよ...
 ったく福チャンは真波に甘ぇんだよクソッ
 なぁ千歳...あ」
「え?」

斜め後ろの千歳を振り返ってみると、真波が言ってたことの意味が分かった。
そういえばさっき勢いで噛み付いちまったっけか...
千歳の半分開いたジャージの襟から覘く首筋の赤い所有印はすぐに消すことは出来ねぇし、なんか癪だが真波に言われた通り一番上までジップを上げてやる。意図を察した千歳は首元を抑えて深いため息を吐いた。

「...真波くんいつからここに居たのかな」
「さぁな...まぁ真波なら人に言ったりはしねェだろ
 よかったな、東堂じゃなくて」
「そういう問題じゃない!
 あぁもう、真波くんに合わせる顔がないよ...」
「ンなんほっときゃいいだろ」
「ほっとけるわけないでしょバカ友!嫌いっ!」
「ッセ、オレは好きだバァカ!おら急げ、遅刻すんぞ」

澄み渡る晴天、眩しい太陽。
照り付ける日差しは5月とは思えねぇくらいに強い、顔が熱いのはそのせいだ、そうに違いねェ。オレは振り返らずに正門に向かって足を速める。

今日は、いい記録が出せそうだ。



荒北靖友の劣情 8
evidence / 2017.05.06 / 11.17加筆修正

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