「ね、一口ちょうだい」

そう言うとオレの前に立つ千歳は手を差し出してきた。
千歳の右手にはまだオレが選ばなかった爽健味茶があるっつーのに、それ飲みゃいいだろ変なヤツ。

「ア?それでも飲んでろ」
「それが欲しい、一口ちょうだい?」

なおも食い下がる千歳は薄茶の瞳でじっとオレを見つめてくる、伸ばした手はそのままで。
そういや最後にその手に触れたのはいつだったか、つーか二人っきりになったのだっていつ振りだ?
ふとそう思ったことで改めて千歳の存在を強烈に感じる。扉からの風に乗って千歳のニオイがした。
チッ、気付くんじゃなかったぜ...
この状況ヤバすぎんだろ!
理性と欲望の瀬戸際で揺れる頭をガシガシ掻いて、オレは残り三分の一になったベプシを飲み干した。

「あぁっ、ウソでしょ全部飲んだ?!」
「っせバァカ、テメェにはこれで十分だ」

絶好のチャンスを目の前に我慢なんか出来るわけもなく、目の前の手を引き寄せて千歳の唇に噛み付くようなキスをする。千歳の右手にあったペットボトルがゴトンと音を立てて落ちてったのを耳にしながら、久しぶりに触れた千歳の熱をオレはひたすら貪った。
最初は力んでた千歳の身体も次第に緩んでって、しがみ付くようにオレ首に腕を絡ませてくる。ベプシでオレの口ン中は甘くなってるはずなのに、なんでか千歳の口ン中のほうが甘い気がした。千歳の口内の上に舌を這わせると、その度ぴくりと反応すんのがたまんねェ。

「...っふ...ぁ」

しばらく堪能してからゆっくり唇を離すと、千歳から色付いた吐息が漏れた。
...これ以上はマジでやべェ。
レーパンの中は熱くなっちまって自己主張してんのを視線を落とした千歳が気付いてやがる。これは生理的反応であって不可避なんだからしょうがねぇだろ、ンな目で見んなバァカ!

「...アー、そろそろ行くかァ
 コレも校門まで持ってけばいいワケ?」

クーラーボックスから立ち上がって底がヘコんだボトルを回収、収納して、ついでにそれを持ち上げる。
集合時間は刻一刻と迫ってるわけで、元気になったコレをどうこうするつもりはねぇし、ただただ不運な出来事だったと割り切っちまえばいいだけの話だ。
問題はおっ勃った息子をどう隠すかだが、
今朝みたいにすりゃ萎えんだろ。

「...それどうするの?」
「ほっときゃどうにかなんじゃねェの、気にすんなヨ」

つーかそこそこ重いんだけどォ、このクーラーボックス。いいから早く運ばせてくんナァイ?手ェ千切れんだろが。
先に用具室から出ようと背を向けた千歳は半開きの引き戸に手をかけ、そして閉めた。

「ハァァ?何、」
「そんなんじゃ外出るの、無理でしょ」
「気にすんなっつったろォ、そこ開けろ」
「...無理」
「テメッ、」
「私が、これで終わりなんて、無理なの...」

扉のほうを向いたまま、千歳は俯いて小さい声でそう呟く。クソ重い荷物を下ろして千歳の肩を掴んで向き直らせると、恥ずかしそうに視線を逸らし、顔を紅く染めた千歳が、そこに居た。

理性は、欲望の前にいとも簡単に儚く散った。



荒北靖友の劣情 6
impossibility / 2017.05.03 / 11.12加筆修正

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