「あ、出発まで休憩?」
「うおぁっ!?」

その先の自販機しか目に入ってねぇオレが用具室の前を通りかかると、開いた扉の隙間から千歳の顔が出てきやがった。
驚いて思わず身体が大きく跳ねる、ンで千歳んなトコいんだよビビんじゃねーか!

「これ持ってったら外練の準備終わりだし、
 ちょっと備品の整理してた」
「おー、ご苦労なこって」

声に出してねェのに千歳は的確な返答を返してくる。
てめぇはエスパーか。
重そうな用具室の扉を中ほどまで開けると、顔だけだった千歳が上下ジャージ姿の千歳になったその足元には用具室に似つかわしくないでっけぇクーラーボックスがある。これってもしかして足元のそれのことォ?
一人で運べんのかよコイツ。

「あなたが欲しいのは冷えたお茶ですか?
 それともぬるいベプシですか?」

思いついたようにクーラーボックスん中ゴソゴソやって、千歳が2本のペットボトルを取り出した。
右手に爽健味茶、左手にベプシ。
なんかどっかで聞いたことあるような台詞、つーかぬるいベプシって何だよ。

「どっちもいらね、オレが欲しいのは冷えたベプシだ」
「正直者には両方差し上げましょう!」
「いらねーっつってんだろォ!?」
「これでも?」

意地悪げに微笑んだ千歳の左手のボトルがオレの頬に押し付けられる。千歳から与えられた事前情報を鵜呑みにして後悔するのはもう何度目か覚えてねェ。
つまんねー冗談ばっかり言いやがって、今日もどうやらそのパターンだったらしく皮膚に当たったそれは予想外の冷たさで、咄嗟に後ろに身を引くと、声を出して千歳は笑う。

「つめってぇ!何しやがるテメッ!」
「あはは!何って、お望みの冷えたベプシだよ」

じゃーさっさとソレ寄越しゃいんだよボケナスがぁ!と言いそうになったが、満足げな笑みを浮かべた千歳を見てるとため息しか出なかった。
オレァその顔には勝てねェように出来てんだよ。
チッと悪態を吐きつつ千歳からベプシひったくってキャップを捻ればプシュッと爽快な音がする。椅子代わりに丁度いいクーラーボックスに勢いよく腰掛けて、欲してたそれをゴクゴク飲んだ。
喉を通った痺れるような刺激が身体の中に染み渡る、この瞬間のために生きてんじゃねェかってオレは思う。
握ったベプシのボトル冷たさと、外から吹き込む風が心地良かった。



荒北靖友の劣情 5
tea or bepsi / 2017.05.02 / 11.12加筆修正

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