「オレはもう負けない。あのブタにも、誰にもだ」

傾いてきた太陽を背負う一差はボトルを口から離すと、突然私に向かってそう言った。
ほらまたいつものビッグマウス。クーラーボックスの蓋を閉めながら、漏れ出た溜め息と一緒に一差を見上げる。

「そんなこと言って。
 一差が負けたら私、指差して笑うから、ね...」

同じくいつものように私も軽口を返したけれど、逆光のなか鈍く光る瞳に射られて息が止まった。普段の一差の馬鹿みたいに子供じみた表情は今ここには無く、久しく見てない、いや見た事自体あったか疑わしいほど彼は真摯な顔していた。
そして更に私に言ったのだ。

「ゆーげんしっこう?ってやつ?
 青八木がそうしてたんだ、インハイで。
 しびれた、マジかっけーって思ったんだ...
 ならオレだってやってやる。
 見てろよ、これがオレ様のチーム総北魂だ」

急に何の宣言、それに有言執行じゃなくて有言実行だし。あと青八木じゃなくて青八木「さん」でしょ。一差って、結局やっぱり馬鹿なんじゃん。
なんて心の片隅で思うのに、呆気に取られた私はそれを言葉に出来なかった。代わりにドクン、一度大きく跳ねた心臓はその勢いのまま強く脈打つ。そこからじわり広がってく熱は肩から首へ、それから頬に、あぁなんで。私の身体、どうしちゃったの。

「鏑木くーん!集合だよ!」
「はい、小野田さん!すぐ行くっす!」

言うだけ言って満足したのか、さっきの真面目面が嘘みたいに顔を綻ばせた一差は私に背を向けて駆け出した。揺れるオレンジの毛先が夕日に透けてキラキラ光る。
彼が背に負う総北の文字が小さくなってく、それに反比例するみたいに頬の紅の面積は大きくなって、私はそこにしゃがみ込んだまま動けなくなった。

「気付きたくなんかなかったのに...バカ一差...」

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