料理が苦手だという自覚はあった。

だけどまさかこんなに時間がかかるとは、たかが麺料理如きで。
たかが、と言うときっと彼は口を酸っぱくして抗議してくるのだろうが、私からしてみれば焼きそばなんで誰がどう作ったって大差は無い。使ってるソースで若干風味が違うかな?くらいなものだ、多分。

───というように正直焼きそばを舐めていた私は今、じゅうじゅう焼けるフライパンの前で焦ってる。時間がない、正直やばい。ついでだからちゃちゃっと作っといたよって、出来る彼女ぶろうとしたのがそもそも間違いだったのだ。こんなに時間が掛かるなんて思いもしなかった、単に私の野菜を刻む速度が亀なのが悪い、と言われればそれまでだけど。
スマホを片手に素早くキーボードをフリック「帰りコンビニでアレ買ってきて」送信ボタンを押して完了、これで多少の時間稼ぎが出来るはず。安堵してまたフライパンの中身をかき混ぜる。あとは青のりと鰹節と、それから、

「…ただいま」

ぐるんと勢いよく振り返ると、まだ帰ってこないはずの男が立っていた。
えっうそ、なんで!?今連絡、どうして気配を消して帰宅、待って焼きそばが焦げちゃう、ちょっと!!

「いい匂いがする、もしかして焼きそばか?」
「れ、冷蔵庫見たら材料揃ってたし!
 時間もあったし気も向いたし私も食べたかったし!?
 たまには料理もいいかなーみたいな...
 別に真護のためとかそんなんじゃ、」
「全く...敵わないな」

嬉しそうに破顔した真護の大きな手が私の頭を撫ぜる。ばか、なにその顔。真護のために作ったんじゃないって言ってるのに。

───敵わないのは、私の方。

たったそれだけの接触なのに、馬鹿みたいに暴れ出した心臓は全然大人しくなってくれなくて、激しく脈を刻む音が身体中に響く。
苦手なりに頑張って良かった、なんて柄にもなく浮き足立って緩む頬を何とか制しながらポーカーフェイスを装うけれど、それだってきっと彼にはお見通し。眼鏡の奥で細められた瞳はただ真っ直ぐ私を見つめていて、結局私の取り繕った仮面なんていとも簡単に剥がれ落ちてしまうのだ。

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