「小鞠ちゃん、小鞠ちゃん」

か細く柔らかい声で、彼女はボクの名を呼ぶ。
初めは纏わり付いてくる彼女自身も砂糖菓子のような声も邪魔なものでしかなかったのに、いつしかそれが普通になって、今や無くては落ち着かないものになった。これが所謂刷り込みというものなのか、それとも単にボクが彼女を好いてしまっただけなのだろうか、答えは未だ明確でない。

「なぁなぁ小鞠ちゃん」
「なんですか」
「髪の毛、触ってもええ?」
「別に…構いませんけど」
「っはぁ、やっぱりや、予想通り。
 つやつやで綺麗やなぁ、触り心地も絹みたいや。
 顔も端正やし、小鞠ちゃんほど綺麗な人、
 私これまで見た事あらへん。
 私の憧れや、こんな女性になりたいわぁ」

小さな手がボクの髪を梳く、鋭く尖った言葉と共に。
声色に似つかわしくない内容だとボクの胸がざわついている。この胸騒ぎの根底にあるのは何だ? 女のようだと比喩されたから、そんな簡単な理由ではない。もっと深く、重箱の隅にある想い、これは、

「…ボクの事、何か勘違いしていませんか」
「え? …っ、小鞠ちゃ、」

ボクに触れていた腕を掴んで引き寄せれば、彼女のか細く小さな身体はボクの中にすっぽり収まる。
これまでボクが彼女に触れられずにいたのは、無意識の内に包み隠していた感情があったからなのだと今更ながらに気付いた。ボクにとっての女性は彼女だけで、彼女にとってのボクは、

「男、ですよ。昔も今も、これからもずっと。
 これでも分からないと言うのなら───」

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