「うっざ!何が美形よデコッパチのくせに!
 ばーか!ばーーか!!」

我ながら語彙力のない悪口を叫んだものである。
言うだけ言って踵を返して全力疾走、「んなぁ!?うざくはないな?!」なんて、それこそうざったい声が聞こえた気がするけど、私は振り返ったりはしない。というか、出来るわけがない。

───何がこの美形に好かれて幸せだな!よ。

調子に乗るなバカ。そりゃ顔が整ってることは認めるけど、す、すきとか、そんなの、初耳だし。寝耳に水だし。
柄にもなく顔に熱が集まって、鏡を見るまでもなく頬が赤く染まってる自覚があった。その上、私を見る尽八が嬉しそうに顔を綻ばせるもんだから、余計恥ずかしくなり今に至るのだ。敵前逃亡なんて好きと認めたも同然じゃないか。あぁもう、バカは私だ…
はぁはぁと息を荒げて行き着いた先、人気のない校舎の壁に背を預けた。ひんやり冷たくて気持ちがいい、そのままずるずるとしゃがみ込んで空を見上げれば、雲ひとつない真っ青な空───の中に、流れる黒髪!?

「っぎゃあ!?何でいるの!?忍者!?」
「っ、だ、れが忍者だっ...
 走って追ってきたに決まってっ…」

なりふり構わず駆けたのだろう尽八は大きく肩を揺らしながら私を見下ろしている。太陽を背負うその姿、悔しいくらい絵になってる。逆光が誰よりも似合うって、本当腹立つ。

「どいてよ尽八、こんなとこ誰かに見られでもしたら、」
「千歳はオレが好きなのだろう?
 オレも千歳が好きなのだから何の問題もあるまい」

歯が浮くような台詞をよくもまぁ軽々と。問題だよ問題しかないよ、主に壊れそうなほど煩く跳ねてる私のこの心臓的な意味で。
そんな私の気も知らないで、満足げに美形は微笑む。どう抗ったって結局、私はその顔が好きなのだ。

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -