夏は終わったはずなのに、変わらず蝉は鳴き続けている。

新学期初日の朝、ジージー煩いBGMをバックに青々茂る木々の下を通り過ぎると、昇降口は休み前より気持ち日に焼けた人達でごった返していた。
喧騒の中を通り過ぎて階段を登り切り、久々に足を踏み入れた教室は少し埃臭いような、でも嗅ぎ慣れた独特の匂いがする。
でかでかと書かれた始業式!の文字を傍目で捉えながら黒板の前を通り過ぎ、締め切られた窓を開けてやれば、勢いよく吹き込んでくる生温い風が頬を掠めた。

「っぷぁ!」
「新開くん何やってんのー」
「いやぁ、はは、カーテンに食われちまったぜ」

風に煽られ舞い上がったカーテンに包まれ視界が白に埋め尽くされる。纏わり付くそれを取り払うと、布の隙間から以前よりも高くなった気のする青雲が見えた。
彼女がいつも見ていたのはこれなんだろうかと、ふと窓際のあの姿が脳裏に浮かぶ。
けどそれは幻影のように、まだ暑い夏の日差しに眩んで消えた。

「新開ー!始業式!」
「ん、あぁ、」
「なんだよボーッとして、夏休みボケか?」
「かもしんねぇな、腹も減ったし」
「ぶっ、はえー!燃費わりーよ新開!」

再開した日常は以前と何一つ変わらない。
変わったのは多分、青春をあの夏の日に置いてきたオレだ。一人だけそこに取り残されている気分、ってのがいわゆる夏休みボケなんだろうか。心の奥深くに居座る虚無感を、未だオレはどうすることも出来ずにいる。
もう1ヶ月も経ってるのにな、案外オレはそういうの引きずるタイプなんだと今更ながらに自覚した。
なのに表情筋は無意識に笑顔を作って、それを周りに悟らせないようにしてるのはなけなしの自尊心、しょうもないプライドだ。
今日の午後には自転車部新キャプテンが発表される。
シーズンオフ前のファンライドまでまだ少し日はあるとはいえ進学の為のあれこれもあるし、実質もう引退と変わらない。
そうだないっそ、自転車から離れちまえば燻ってるこれも消えてくれんのかな...
なんて、オレらしくないセンチメンタルを抱えながら、バタバタはためくカーテンもそのままにオレは教室をあとにした。



うそつきオルタナティブ 2
プロローグ / 2018.06.30

←01うそタナmenu 03→
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -