見上げれば青く、高い空。
そよ風で緑が揺れて、伸びる影もまた靡く。
「ひっつくなアッチィ!」
木陰で涼んでいても汗が吹き出てくるこの蒸し暑い真夏日、私は気怠そうな後ろ姿にそっと身を寄せた。
口ではそう言ってるけど、彼のお腹に回した腕に触れてる手は私を引き剥がそうとはしない。ただそっと添えてある、冷たい指先が心地良かった。
彼の匂いがする布に頬を寄せて血の巡る音を聞きながら、同じくくっつくと余計暑いなとか思うけど、
「これがいいの」
「ッゼ」
この熱と汗が混ざり合う感覚も好きなんだって、言ったところできっと靖友は理解はしてくれないだろう。
「ねぇ靖友、ぎゅってしたい」
「してンじゃねーか」
「違う、ぎゅってしたい」
「...ハァ」
背中だけじゃなくて全部が欲しくなって強請るようにぐりぐりと顔を擦り付けると、触れていただけの指先が私の腕を掴む。引き寄せられた勢いでバランスを崩しながらも靖友を見上げれば、眉間には深い皺がくっきりと刻まれていた。
これみよがしにため息なんて吐いちゃって、そんな顔をしている癖に結局私の望み通り。素直じゃないんだから靖友は。
すっぽりと彼の身体に包まれて、シャツの隙間から覗く鎖骨が頬に触れる。さっきよりも強く感じる体温と靖友の匂いが、私の欲望を掻き立てたのだ。
「これで満足ゥ?」
「全然」
「ッアァ!?何調子乗って、」
「ん」
きつく絡みつけた腕から力を抜いて、私を睨む彼を見上げる。器用にも左右非対称に表情筋を歪めた靖友に、軽く唇を突き出して私は瞳を閉じた。
言葉無く、また深くため息が漏れる音がしたけど、それって呆れてるとかのやつじゃなくて、しょうがねぇなって意味だなんだって、私は知ってる。
そのまま目を開かずに待っていれば、ほらね。
柔らかい感触が唇に触れる、食むような甘い接吻。
「ふふ、満足です」
「...アッソ」
離れてく三白眼に微笑みかけると、靖友は私からふいと視線を逸らす。けれど私を包む腕はそのままで、ぎゅっと彼にまた抱き付けば、それに応えるように彼の腕に力が篭った。
そんな夏の午後のお話。
summer / 2018.05.25
"荒北さんに無駄に甘やかされたい!"
"荒北さんに無駄に甘やかされたい!"