「...ア?雨ェ?」

受験勉強の息抜きがてら久々にチャリ部に顔出して、後輩共にささやかなアドバイスしつつ赤本睨みつけてる間に気付きゃ小一時間経っていた。
引退した身で長居するとか後輩からすりゃ邪魔モン以外の何者でもねェっつーのに、オレァ何やってンだ。
耳に慣れたローラー音聞いてっと一人で部屋に篭ってるより勉強が捗ンだよ、って誰に言うでもない言い訳頭ン中に浮かべながら部室の扉を開けると、まだそんなに遅い時間でもねェのに外が何かやたらと暗くなってる。何事だと屋根から顔出して上を見上げると、重っ苦しい空からぽつり、水滴が落ちてきた。
一滴、二滴、数えられる程度だったそれは瞬く間に増えってって、いわゆる夕立ちとかゲリラ豪雨ってヤツ?タイミング悪りィ雨にオレは呆然とその場に立ち尽くす。
ンじゃ帰るわって言った手前、振り返ってその扉を開けんのも気がひけるし、つってもこの雨じゃ帰れねェし。
さて、どうすっかァ...
頭抱えてびしゃびしゃンなってくアスファルトを意味も無く眺めること数十秒、そいや更衣室のまだ整理してないロッカーん中に、と折りたたみ傘の存在を思い出す。

『いざという時の為に置いておくと便利だぞ!』

とか言ってたのは誰だったかは言うまでもねェけど、メンドクセェなテメーはオカンか!とか思いつつ、渋々その通りにしてたコトに今日ばかりは感謝だな。...まァ結局部活行ってる間にゃ使わなかったンだけどォ、その傘。
長らく使ってねェけど大丈夫か、なんて思いながらオレはざあざあ降る雨を横目に更衣室に向かったのだった。


*


記憶の通り、ロッカーの奥深くに眠ってた折りたたみ傘を手にしたオレは昇降口へと歩を進めていた。
帰宅部のヤツらはもう帰ってっし、部に入ってるヤツらは部活してっしで、校舎から人気はすっかり無くなっている。
下駄箱で上履きから外履きに履き変えようとスニーカーを床に落としただけなのにバシンと叩きつけるみてェな音がそこら中に響いた。シンと静まり返る空間に雨の音だけが聞こえてくる。...なァんか静かな校舎って落ち着かねェ。さっさと帰ってまた勉強だなっつって、現実思い出せば思わず深い溜息が出た。雨のせいで余計気分が萎えるっつーかなんつーか、何かいいコトでもありゃぁ、ちったぁ頑張れンのかもしんねーけど。
重い足取りで下駄箱から出て行くと、昇降口の扉の向こうに女が一人居るのが目に入った。
空見上げたまンま突っ立ってるソイツは、急に雨に降られてなす術もない、みてェな顔してる。

「...よォ千歳チャン、何してんのォ」

持ってた折りたたみ傘隠してオレは女に声を掛けた。
オレの存在に気付いた千歳の視線が空からオレに移ると千歳は困ったように眉下げて、

「雨宿り。急に降るんだもん、困ったよね
 でも良かった荒北が来てくれて、一人心細かったんだ」

でも少し口角を上げて、オレにそう言った。
何コレェ、思わぬトコに転がってんじゃねーか、いいコト。雨もたまにゃいい仕事すんじゃナァイ。

「荒北も傘難民?」
「...まァそんなトコ」
「ねぇ、これ待ってたら止むかなぁ?」
「夕立ちだったら止むんじゃナァイ?」
「止むといいなぁ...荒北それまで一緒に居てくれる?」

横に並んだオレの裾を千歳のちっちぇ手が引いてくる。無意識なんだか意図的なんだか知ンねーけど、そゆコト簡単にすんなバーカ。オレみてェな簡単な男はすぐ落ちちまうンだからよ。

「しゃーねェなァ、付き合ってやンよ」



sudden shower / 2018.04.30
"荒北さんと雨宿り"

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