「ねぇ海行きたい、こんな地元のじゃなくてさー」

浜辺でビーチバレーに興じる男共を遠巻きに眺めながら、ぼそり呟いてみる。
さほど大きくないパラソルの影の中で日に焼けまいと身を丸める私、その一方で隣でうつ伏せになっている黒尾は半身を影からはみ出させてる。これ半分だけ焼けたらどうするんだろうとか思いつつ、私は太陽に晒された黒尾の背中にさらさらと砂を積んだ。
これが柄になれば面白いことになるんだろうな。そうなったら、あの研磨だって笑っちゃうかも。
日焼け予想図にほくそ笑みながら黒尾の反応を待ったけど、黒尾はうんともすんとも言いやしない。
え、もしかして寝てるの?波の音がかき消されるほどの馬鹿みたいな野郎どものはしゃぎ声をBGMに?しかも彼女ほっといて?嘘でしょ。

「もっと綺麗な、それこそ沖縄くらい澄み渡った海に
 行きたいなぁ。ねー、聞いてる?聞いてますかー?
 クロ?寝てるの?もー...」

反対側を向いてる黒尾の顔を覗き込んで見てみれば、鋭い三白眼は瞼に覆われていた。
黒尾のことだから都合の悪いことは聞こえませーんの狸寝入りモードな可能性もなきにしもあらずだけど、よくよく耳を澄ませてみれば、微かに穏やかな寝息が聞こえる。

───このタイミングで寝ちゃうとかある?

逆にこの状況下で眠れる感嘆と、呆れが混ざった溜息が真っ青な空の中に消えてった。
別に沖縄に連れて行けとか言ってるつもりはないよ、部活もあるし、引退すれば受験だし。
だからこそ今日みたいな貴重なオフくらい何か恋人っぽいことを少しくらいしたかった。部員と海に来てる時点で詰んでるといえば詰んでるけどさ、一応二人きりと言えば二人きりなんだよ今、気付いてる?

「ばか、二人の時くらい起きててよ...」

大それたことを望んでるわけじゃない、ただ並んで手繋いで座ってさ、研磨だるそー!とか夜久くんのレシーブ相変わらず神だ!とか言いだけなの。それすら高望みだって言うならジ・エンドだよ。
それにせめて寝るんなら、こっちに顔向けて寝てくれたっていいんじゃない?まるで喧嘩中のカップルじゃん!今まさに喧嘩が勃発しちゃうよ、ねぇ。
もう一回寝顔を覗き込んで見てみれば、黒尾は眉を寄せて険しい表情を浮かべてた。顔に突き刺さる真夏の日差しは当然眩しいに決まってて、内心は憤ってるのに私はついそれから守るように、黒尾の顔の上に手をかざして影を作った。じんわり薄れてく眉間の皺、気付いた黒尾が私を横目で見上げて微笑を浮かべる。

「っ!起きてるんじゃん!」
「寝てますー」

起きてたでしょ絶対!最初から!うわー、もう変な仏心なんか出さずに背中にもっと変な柄描いてやるんだった!
なんて後悔したってもう遅い。ニヤつく黒尾は寝返り打って、背中の砂は浜辺に戻ってしまった。
私の心の中見透かしたみたいに黒尾の指が私の手に触れる。一本、二本と絡まる指が増えてって、全部の指が絡まると今度は黒尾の身体が私に擦り寄ってくる。
折りたたまれた膝は伸ばされて、剥き出しの太ももを黒尾のもう片方の手が撫でた。つんつん上向く黒髪がそれの上に乗っかると、太ももからお尻を通った黒尾の腕は私の腰に巻き付く。めでたく膝枕に鎮座した黒尾は私を見上げると、涼しい顔して私に問うたのだ。

「オレがいる地元の海と、
 オレがいない沖縄の海、どっちがいい?」

聞いてたんじゃん、やっぱり狸寝入りだったんじゃん...
真っ直ぐ見つめられるとぐうの音も出なくなる。そんなの、答えは決まってるでしょ。

「...クロのいる海」

私がそう答えると、黒尾は満足げに目を細めた。
その顔、本当にずるい。そうやって私に有無を言わせないんだからタチが悪いよ。でもそんな黒尾を好きになっちゃったんだから、どうしようない、か...
こうべを垂れて、また溜息を一つ。流れ落ちた髪先に黒尾の指が絡みつくとクイと引かれた。
少し前屈みになった私の後頭部は捕まえられて、ますます近付く黒尾の端整な顔。
あ、これってもしかしてキス、

「はいそこー!イチャイチャしなーい!!」
「強行わいせつ罪で逮捕しますよー!!」

「...ありゃ、バレた」

そりゃバレるよ、私たちを隠すものは今何もないんだから!...というかリエーフ、強行わいせつ罪じゃなくて強制わいせつ罪だよ、もっと勉強しなさい!
何もないのに、雰囲気に飲まれて私は一体なにを...!見られてた恥ずかしい消えたい海に沈みたい...
我に返った途端に顔が熱くなる。
そんな私を尻目に黒尾は飄々した態度崩さずに、よっこらしょとか言いながら立ち上がると、身体に纏わり付いた砂を落としながら私を見下ろして、

「続きはまた後で、デスネ」

そう言い残すと私に背を向け、ビーチバレーで盛り上がる浜辺に向かってった。
その時のいやらしく口角を上げる黒尾の笑顔が眩しくて、私の顔は尚更赤くなったのだ。



sea side / 2018.04.22

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