オレが卒業するワケでもないのに、何故か頭ん中にこれまでの高校生活が走馬灯のように蘇る。
いがみ合ってたあの日々は思えば遠く、オレの毎日は日に日に千歳で一杯になっていった。
初めて千歳を抱き締めたとき、オレは驚いて目ぇまんまるにした千歳の頬がじわりと赤に染まっていくのを見た。今思えばそれがきっかけで千歳を意識し始めたのかもしれない。
千歳の意外な一面を知り余計気になるようになって、荒北さんに向けられた満面の笑みを見て嫉妬に駆られたあの時に、オレは千歳を好きだって自覚したんだっけか。
真波に負けてボロボロんなったオレを叱咤して奮い立たせてくれたのも千歳で、インハイに負けた先輩の代わりに泣くんだって号泣する千歳にちょっと欲情したな、なんて何変なことまで思い出してんだオレ。
二人揃いの猫耳で、並んでたこ焼き食ったよな。あん時もう二度と千歳に怖い思いさせてたまるかって思ったんだっつったら、千歳はオレを笑うだろうか。
あの日触れた千歳の唇の感触は今でも鮮明に思い出せる。その感触がまたオレの唇に触れてんのは初春が見せる夢か幻か、これがほんとに現実なのかまだいまいち信じ切れなくて、腕ん中の千歳を更にきつく抱き締め今度は一度だけじゃなく、オレは何度も千歳にキスをした。
オレの背に巻き付いてきた千歳の腕が現実なんだっていう何よりの証拠で、あぁこれってマジなんだって今更ながら実感する。さっきまで奈落の底に居たはずなのに、オレの気分はあり得ないほど急浮上、振り幅半端なさ過ぎんだろテンポ遅めのメトロノームか!

「千歳」

名残惜しいながら唇離して名前を呼ぶと、ほんのり頬を桜色にした千歳と目が合った。眉下げてはにかむような微笑を湛えたその顔は、オレがずっと欲してきたそれだ。オレはずっと、その顔をオレだけに見せてくれんの待ってたんだよ。
っつーか、荒北さんに憧れてましたって言ってきただけってなんだよ千歳。あんな告白してますみたいな雰囲気バシバシ醸し出してたくせに紛らわしんだよバカ!荒北さんも荒北さんだ、何で千歳の頭撫でたんだよ気安く千歳に触んないで下さいよ。ま、もう千歳はオレのなんで、今後触れさせるワケないっすけどね!
妙な自信に溢れる胸中で意味もなく荒北さんに宣戦布告してみたりして。バカかよオレ、両想いに浮かれ過ぎか。

「...黒田?」

なんて思ってたら千歳が頭を少し傾げながらオレを見上げてくる。んだそれ彼女みてぇ、いや実際オレの彼女になったのか。
きょとんとしてる千歳だって笑ってるときくらい輝いて見えるとか、オレの目にゃ色眼鏡でもかかってんのか?落ち着け黒田雪成、一回瞳を閉じ親指で額を一掻きして、心鎮めてからもう一度千歳を見た。
あ、駄目だこれ、治んねぇ。
でっかい瞳に吸い込まれるみたいにオレはまた千歳に顔を寄せる。そしたら千歳は少しだけ口角を上げると、黙ってその瞼を閉じた。

───バカ、止まれなくなんだろが。

今度は手加減してやれねーかんなって、心ん中で呟きながら千歳の唇にまた触れる。
一足早い春の訪れ、まだ桜は咲いてないのにオレの頭ん中はピンク色でいっぱいだった。



モノクロ*デイズ ext.1
kiss my heart / 2018.04.18

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