「もうこうなったらお持ち帰りするしかないと思うの」

唐突に呟かれた言葉に、思わずワシは着替えよった手をとめる。
振り返ってみりゃ、部室の真ん中に置かれた椅子に座っとる千歳が机の上に肘立てて指組んで、至極真面目な顔してワシらを見とった。ちゅーかどして人の着替えをそがな目で見よるんじゃ、とも思ったが別に見られて減るモンじゃないけぇ、まぁええんじゃけどの。

「なんじゃ千歳、いきなり何言うとるんじゃ...?」
「どっかの司令官みてェな雰囲気出してんじゃねーヨ
 どうせいつものくだらねェ独り言だろォ?
 構うな待宮ァ、巻き込まれたらメンドクセー」

頭に疑問符浮かべるワシに隣で同じく着替えをしとった荒北がぶっきらぼうにそう言いよった。確かに昔流行ったアニメの眼鏡司令官に似とる、背後にもう一人誰かが立っとりゃ完璧なんじゃがのぉ。
なんてそがなんはどうでもええ、問題は千歳のさっきの言葉とあの顔じゃ。意味深、ちゅうかお持ち帰り言うたらワシが連想することは一つだけじゃし、そもそも千歳が真剣な顔しとるときは大体碌なこと考えとらん。荒北の言う通り構うべきじゃなかったんかもしれんが、時はすでに遅かった。

「来週部の飲み会があるじゃない?
 そんでもって私が今回幹事じゃない?
 だから私の家から近いお店を会場にして、
 お持ち帰りしようと思うの、金城くんを」

それは表情とは裏腹の、とてもじゃないがそれに似つかわしくないトンデモ発言じゃった。
千歳が言いたいことは理解出来る。
ワシが千歳と出会ったキッカケは洋南チャリ部じゃ、付き合いはゆーてそう長くない。長くはないがワシだって知っとる、千歳が事あるごとにしつこく金城に言い寄っとることは。聞いたところによりゃ総北のマネジだったときからアプローチしよるらしいのぉ?
千歳が言いたいことは理解は出来とるんじゃ。じゃが理解することをワシの脳ミソが拒んどる。
決して諦めない女、なんて誰がウマいこと言えゆーたんか知らんが、えらい二つ名がついとるもんじゃ、ワシャいよいよ恐ろしさしか感じれんわ。
聞いたらいけん。これを言うたら、千歳の思惑を知ってしもーたら、もう逃げられん。でもワシは荒北の制止も虚しく、つい聞いてしもーたんじゃ...

「もう一度言わしてくれぇや
 千歳、何言うとるんじゃ...?」
「ッオイ、聞くなバカ宮ァ!」
「だーかーらー!
 飲み会で金城くん潰して、お持ち帰りするの!
 何回誘っても私の家に来てくれないんだもん、
 もう実力行使するしかないじゃん。わかった?
 わかったよね?そういうわけだから協力よろしく!」

ワシらに有無を言わさんような、とびっきりの笑みを浮かべて千歳は言うた。
佳奈といい千歳といい、なんでオンナっちゅーんはおっかないコト言うときに限って満面の笑みを浮かべるんじゃぁ?心肝寒からしめるにも程があろうが!

「...だから聞くなっつったンだろぉ...」
「今回ばっかりはワシが悪かったわ...スマン荒北ァ...」

二人並んで頭抱えて、ワシらは深く深くため息を吐く。そがなんお構いなしに千歳は来週のプランについて嬉々として語り出しよる。楽しそうで何よりじゃけど、言うとる内容が下衆いんじゃ千歳...なまじ顔がカワエエぶん、ワシャ余計に恐ろしいわい...

「ふ、ふふっ...」
「ぜってー今よからぬコト考えてンだろ千歳チャン...」
「金城が気の毒になってきたでワシ...」



似非淑女の本懐 2 / 2018.04.16

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