気付けば好きになっていた

なんてドラマとか漫画とかだけでしか起こらない、例え現実に起こったとしてもオレには縁のない話だと思ってた。
見ての通りオレってこんなだから、誰かの恋愛対象にはならないだろうって心のどっかで思ってて、無意識のうちに誰かを好きになったって無駄なんだから、最初から好きにならなきゃいいって、オレはきっと逃げてたんだ。

「お前本当好きだよな、千歳のこと」

だからユキちゃんが放った言葉にオレは耳を疑った。
そりゃ好きだよ、だって友達だもん。友達はみんな好きだよ、ねぇそうでしょユキちゃん?
オレがそう切り返すとユキちゃんはいつも眠たそうにしてる目を見開くと心底驚いたみたいな顔をして、

「...無自覚かよ」

って呟いた。
千歳ちゃんは仲の良い女友達、自転車部のみんなを除けばもしかすると一番仲が良いと言えるかもしれない。でもだからってそんな目で見られるのは遺憾だよユキちゃん、遺憾のイを表明するよオレは。ところで遺憾のイって何のイなんだろ、今とっても怒ってますのイかな?

「千歳ちゃんは友達だよユキちゃん
 それ以上でもそれ以下でも、」
「それ、あれ見ても言えるのかよ?」
「え、」

あれって何?
クイと顎で左前方を指すユキちゃんの視線の先に焦点を合わせると、そこには千歳ちゃんの姿があった。噂をすれば影ってやつだ、そう言おうと口を開いたはずなのに、何でか声は出なかった。
───千歳ちゃん、隣にいる男子は誰?
楽しそうに笑う千歳ちゃんの手が隣の彼に触れる。
だめだよどうして?触っちゃダメだよ千歳ちゃん、オレ以外の人に触れないで!

「ほらな、だから言ったろ」

心の叫びは言葉にならなかったはずなのに、ユキちゃんは聞こえてんだよって言わんばかりにため息を吐いてそう言った。ユキちゃんって、もしかしてエスパーなの!?

「顔に出てんだよ全部!分かり易すぎか!」
「ハッ!?そ、そんなこと...」
「あるんだよ!いい加減認めろよ!
 自覚出来たんならどうすりゃいいか、わかんだろ拓斗」

ゴール前でいつもしてくれるみたいに、ユキちゃんはオレの背中を押した。実際に背中を押されたわけじゃないけど、心の中のオレの背中を押してくれたような気がしたんだ。って言ったら多分、ユキちゃんはお前は不思議チャンか!とか言うんだろうな。
心の中に浮かび上がった嫉妬にも似たそれは、千歳ちゃんのことが好きになってたんだっていう紛れもない証拠で、これは友情からくる好意ではなく恋情だった。オレの預かり知らぬところで、オレは千歳ちゃんに惹かれてたんだ。

気付けば好きになってました。
こんなこと、まさか自分が言うことになるなんて信じられない気持ちでいっぱいだよ。でもね何でだろう、オレ今頭の中で、クラシック鳴ってる!

千歳ちゃんに向かって行ってる足が、どんどん速くなっていく。オレに気付いた千歳ちゃんと目が合って、思わず彼女の名前を呼ぶと千歳ちゃんは優しく柔らかく微笑んで、

「拓斗」

彼女が紡いだたった3文字の言葉は鳴ってたクラシックかき消して、永遠と頭の中をループする。その可愛い笑顔の映像も共に、オレの頭は千歳ちゃんでいっぱいになった。

ねぇユキちゃんどうしよう
オレ本当に、千歳ちゃんが好きみたい...



unawareness / 2018.04.13

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