外練を終えたオレは部室を目指してペダルを回していた。駅も近くなって交通量が増す車道、そこを曲がれば長い登り坂が始まる。行きはヨイヨイ帰りはナントカ、大学に戻ろうとすりゃどうあったって回避出来ねェ最後の難関に毎度オレはゲンナリする。疲れた身体に鞭打つみてェなクライミングを好きとか言えるクライマーってヤツはただのマゾだろ、オレにゃ全然理解出来ねーヨ。
黄緑のユニフォームの先頭に立って後続を引いてたオレが登りになンならもうお役ご免だっつって自ら下がるまでもなく、後ろからクライマーの奴らが上がってきた。誰が一番最初に校門前の白線を踏めるか競争な!なんつって嬉々としだすクライマー陣は息巻いて加速していく。バカかよ、最後くらいゆっくり登らせやがれ、と思うオレに同調したんだか、ビアンキのチェーンが嫌な音立ててギアから外れた。

「わりィ、メカトラ」
「止まるか荒北?」
「お前らは先行けヨ、先輩達に遅れるって言っといてェ」
「了解した」
「エッエ!不運じゃのぉ荒北ァ」
「ッセ!さっさと行けボケナスが!」

すぐ後ろに居た金城にそう言って集団から離脱する。最後尾に居たクソ待宮がニヤニヤしながらオレの横を通過して、残されたオレはチャリを直すために駅前のロータリーに入った。少し開けたそこに降り立って、ギアチェンジして後輪を持ち上げ軽くペダルを回してやりゃ簡単にチェーンは元通りになる。

(さァて、後追うか...いや、ついでだしちっと休むかァ)

怠け心が顔出して、オレはビアンキに跨るのをやめた。あの坂を今登りたくねェってのが本音である。
ベプシ飲みてェな、でもチャリ放って行くワケにもいかねーし、どうすっか。あっちぃ日差しの元で突っ立ってても体力ゲージは削られるばっかで全然休憩になってねェヨって深い溜息つけば、伝った汗がぽたりとアスファルトに落ちて染み込んでった。色濃くなった小さい円は炎天下に晒され一瞬で元の色に戻って、暑さを視覚でも感じた気がして何か余計憂鬱ンなる。

(...やっぱ戻っか。クーラー効いた部屋で涼みてェ)

も一度溜息吐いてビアンキ跨いでクリートはめて、さぁ行くかって時に目線の先にある携帯ショップの自動扉が開いた。あん中はさぞかし涼しいンだろなァ、なんて少し恨めしく思ってると、中から見覚えのある女がひょっこりと顔を出した。
ちっちぇ紙袋ぶら下げた真っ白のセーラーは、出口まで見送りに出てきたらしい店員に深々と頭を下げると手にしたスマホ見つめて嬉しそうに顔を緩める。

(なんて顔してんだヨ白崎チャン...
 ア、もしかして今日念願だったスマホデビューの日ィ?
 ハッ!ご機嫌にも程があンだろ!)

思わず吹き出しちまったオレに気付くこともなく、そんままのろのろ歩き出した白崎チャンの視線はそれに釘付けで、いわゆる歩きスマホってヤツ、危なっかしいったらありゃしねェ。本人もそれ気付いてンのな、画面一回触るたびに顔上げて行く先確認して、また画面見て前見て画面見て前見て、ンなにスマホ弄りてェんなら一先ず立ち止まるか、どっか座るなりしたらァ?って言いたくなる。
ハラハラしながら白崎チャンの亀みてェな動向を見守ってると、サイジャのバックポケットの中身がヴーヴー震えた。背中からスマホ取り出して画面を見れば、表示されてる文字は"未読メールが1件あります"
送信者もメールの内容も、メールボックス見るまでもなく予想がついた。思わずオレの口元も緩んじまうのは、白崎チャンがあんな嬉しそうな顔すっからだ、つられちまってンだろきっと。
電話、と思ってアドレス帳を開いたが電話番号載ってねェ、そういやメアドしか交換してないんだった。今すぐメールの返事打つのもメンドクセーし、ンならこうしたほうが絶対早ェだろ。

「白崎チャァン!!」

張り上げた声に反応して白崎チャンの頭が勢いよく上がる。コッチィ、と付け加えてやれば泳いでた白崎チャンのでっけェ両目がオレを捉えた。スマホの画面とオレを交互に見ては、心底驚いたって言わんばかりに目ェまん丸にしてる。
幻覚?幻聴?とでも思ってンだろ?
白崎チャンの考えてるコトは手に取るように分かンだよ、白崎チャン百面相だからァ。

「どっちでもねーヨ、白崎チャン
 いいからちょっとコッチおいでェ」



AとJK 5-4
歩きスマホに御用心 / 2018.04.10

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