久しぶりに千歳先輩に会える。
そう思うと待ち合わせの時間はまだ先だってのに、自然とペダル漕いでるみたいに足早になった。どんだけ先輩が好きなんだよってオレん中のオレが突っ込みを入れてくるほど、浮かれてんなって自覚はある。
ふと目についた通りがかりのショーウィンドウ、そこに映り込むオレの顔はいつになくご機嫌面で、んな顔して街歩いてたのかよ!と何か恥ずかしくなってきた。そういや寮出るときに塔一郎がえらく生暖かい目でオレを見てたが、もしかしてそん時からこんな顔してたのかよオレ。浮かれてるどころの騒ぎじゃねーじゃねーか。
一度そこで立ち止まり、両手でぱちんと頬を叩いて緩んだ顔を修正する。よし大丈夫だ、いつも通り、普段通り。風で少し乱れた髪もついでに直して、オレはまた歩き出す。また頬が緩んでくんのに耐えながら。

*

腕時計をちらりと見ると、約束の時間の5分前になっていた。そろそろ行くか、と手にしてた雑誌を棚に戻して本屋から出る。その正面にある駅の改札が待ち合わせ場所、行き交う人を避けながらオレは千歳先輩の姿を探した。
まだ来てないかな、もし来てんならいつものあの角にいるはずだ。そう考えながら進んで行くと、案の定そこに千歳先輩らしきシルエットがあった。というかオレが先輩見間違えるワケねーし、絶対あれは千歳先輩に違いない。
声を掛けようとオレは大きく口を開くが、その口は開いたまんま、足の動きも止まってオレはその場に立ち尽した。
オレを待ってるはずの先輩の正面に、見たことねぇ男が立っている。ナンパか?それなら今すぐ助けに、と思うのにオレが動けないでいるのは先輩がその男に眩しい笑顔を向けてたからだった。親しげに笑い合ってるその光景に、息の根が止まりそうになる。

誰ですかその男、オレは先輩のそんな顔知らない。

固まってる間に談笑は終わって、そいつは先輩の頭をポンと叩くと改札の向こうへ消えてった。残された先輩は時間を確認したんだろうか、鞄から取り出したスマホの画面に視線を落とすとオレの方に向き直る。そして直ぐに浮上した先輩の目が未だ固まってるオレを見つけて、先輩は嬉しそうにオレの名を呼んだんだ。

「雪成!」

さっきとはまた違うぱぁっと花が咲くみたいな笑みを顔いっぱいに湛えた先輩がオレに駆け寄ってくる。さっきの男に向けてたそれより何倍も可愛いくて、心のどっかでまさか浮気か、と思ってしまったオレが馬鹿らしくなった。どうせゼミが一緒とかサークルの何かとか、きっとそういうやつだ、そうに違いない。余計な詮索すんのもカッコ悪いし、千歳先輩の笑顔見てりゃもう充分だ。
───でもやっぱり、ムカつくもんはムカつく。

「っへ!?っん、雪成、待っ、苦し...っ」

駆けて来た先輩の腕を引いて、そこが公衆の面前だってのも気にせずに、どこの馬の骨かもわかんねー男に触れられた頭を撫でながら先輩が壊れちまうんじゃないかってくらい強く抱き締める。鼻腔を掠める甘い匂い、じんわり浸透してく体温、これは全部オレのモンだ。

「雪成、人が見てるからっ...!」
「...別にそんなの、」.
「二人きりになれるとこ行ってから...ね?」

オレの腕ん中でもがき出す先輩から渋々身を離すと、オレを見上げて上目遣いになった先輩が、ほんのり頬を染めてそう言った。
誘ってんすか、誘ってんすよね?
先輩のことだからきっとこの言葉に言葉以上の意味はなくて、多分カラオケとかそういうとこ指してんだろうけど、んなコト言われちゃ行き先の選択肢は一つしかないだろ。

先輩に拒否権なんて、ないっすからね。



meet up / 2018.03.31
"嫉妬した黒田くんが力強くギューって抱きしめるやつ"

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