だけど結局出会えることもなく、あっさりと時は流れ、もう1ヶ月経つ。

今日もきょろきょろホームを見渡して、案の定探し求める姿は見つけられず落胆する。毎日のこととはいえ淡い期待が裏切られるのは少し悲しい。
もしかしてあの日電車に乗っていたのはイレギュラー中のイレギュラーで、例えば友達の家に泊まってそこからの通学だったとか、そういう可能性もあるわけだけど、それでもいつかまた会えるって信じたい。
私は思いのほか夢見がちな少女なのかもしれないな、なんて思ったりして。
記憶の中の彼は日に日に朧げになってって、忘れたくないのに記憶というのは曖昧で酷薄だ。
重い足取りでホームを後にして、駅を出て学校を目指す。まっすぐ緩やかな坂を登っていって、右に曲がると坂の斜度は更に上がる。大した距離じゃないけれど、この斜度の変化が結構辛い。
少し登ったその先にある洋風建築の校舎が目的地、それを通り過ぎて更に上がれば彼が通う洋南大学がある。
坂を彩っていた桜の木はすっかり緑の葉が茂り、夏に向けて強くなってきた日差しから私を守ってくれている。じきに毛虫のシャワーを浴びせてくるのは勘弁してもらいたいけど、それもまたご愛嬌。
きつくなった坂道もあと半分、ふぅと息を吐いて先を見れば、校門の近くにちーちゃん達の姿が見えた。大きく手を振りながら私を待つ学友達に、私も手のひらをひらひらと、その時上からすごいスピードで競技用の自転車が下ってきた。
前屈姿勢で白い独特のヘルメットを被った集団は私の横を通り過ぎ、駅とは反対方向へと曲がってく。すれ違ったのは一瞬なのに、洋南と大きく書かれた鮮やかな黄緑ストライプのクラブジャージが脳裏に焼き付いて、切れ長の鋭い瞳、あのときの彼に似た人が居た気がした。
まさか、ね。
洋南って文字だけで彼と決めつけるのは軽率だ。
でももしかして、ううん、そうであって欲しいだけ。

もう一つ生まれた淡い期待を胸に坂道を進んでいこう。
明日からはこの坂だって、登るのが楽しみだ。



AとJK 2-2
桜坂 / 2017.06.15

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