「あ、ごめんみんな、千歳と大事な話があるから
 今日は二人で食べてもいいかな?」

いつものようにお弁当を食べようと集結してきた友人たちに向かって、ちーちゃんはにこやかにそう言った。
うんわかったよ、なんてみんなあっさり引かないで、ちーちゃんのこの笑顔の裏の本心に誰か気付いて...!
声にならない叫びが心の中でこだまする。
内心慌てふためく私なんてお構い無しに、許可を得たちーちゃんは私の腕を掴むと教室の角へと引きずってった。

「さ、詳しく話してもらおうか?」

窓際の一番後ろの席に座ると、その前の席の椅子に座ったちーちゃんが机を挟んだ向こう側で腕組みをしながら阿吽像の吽形みたいな顔で私を見ている。あぁ何かこれ見たことある。取調室のやつだ...
机の上にあるのはカツ丼ではなくお弁当箱だけど、間違いなく刑事ドラマでよく見るあれだった。私をじっと見つめるちーちゃんの目が怖い。仁王様みたいな顔しないで、なんて言ったらきっともっと怒るんだろうな。

「えっとその...どこから話したらいいのか...」
「全部!最初から!洗いざらい!
 相手はどこの誰?どんな人?
 どうやって出会ったの?いつ?」

お弁当箱の中身を箸でつつきながらゴニョゴニョと言葉を濁してみるけど、ちーちゃんは机から身を乗り出して食い気味にまくし立ててくる。
ひ、ひぇぇ...怖いよ、ちーちゃん...
吐け!おまえがやったんだろ!!って責め立てられる容疑者になったみたいで、全然食欲が湧いてこない。ミートボールをつまみ上げては落とし、つまみ上げては落としの繰り返し、甘いタレが絡んだ肉の集合体は私の口に入ることなくひたすらお弁当箱の中で転がり続ける。
ドラマよろしく激しく机を叩かれないだけマシなのかな。でもちーちゃん、私は何の罪も犯してないよ。

「えっと...その人と出会ったのは4月の終わり頃で、」
「4月!?今7月だよ!?
 そんな前のこと、何でずっと黙ってたの?
 まさか...何かやましいことでもっ...」
「そんなのないよっ!
 出会ったのは4月だけど、荒北さんと再会して
 お話出来るようになったのは本当最近の話で...!」

確かにずっと黙ってたのは悪かったと思う。でも私はただ荒北さんを好きになって荒北さんを追っかけてるだけ、いわば私は荒北さんに魅せられた恋の被害者だよ。って何馬鹿なこと考えちゃってるんだろ私、恥ずかしい...

「え、何頬染めてるの千歳...
 やっぱりなんかやましいことがっ...!?」
「ち、ちがう、ちがうってば!
 これはその...やましいとかそんなんじゃなくて...!」

そんなんじゃなかったら何なのって、言われなくてもわかるよ。だってちーちゃん、顔に書いてあるもん。荒北さんを改めて好きだって思ったら恥ずかしくなっちゃった、なんて言葉にするのも恥ずかしくて私はまた口籠る。
どうやったらちーちゃんから嫌疑の眼差しが消えるんだろう。ちーちゃんの言う通り、最初から全部洗いざらい吐けば、分かってくれるのかな...いや、分かってもらう!
そうだよ、いかに荒北さんが格好良いかご理解頂くんだって私はさっき決めたじゃないか。
やましいことなんて一切ない、私の中にあるのは荒北さんへの純粋な恋心だけ。嫌疑の眼差しが何だ、そんなのに怯んでる場合じゃないでしょ私!

「じゃあ聞こうか、千歳?
 その"アラキタさん"とやらのこと、詳しく」
「っ望むところだよ、ちーちゃん...!」



AとJK 5-2
戦いの火蓋は切って落とされた / 2018.03.09

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