「ユキちゃんお誕生日おめでとー!」

ペットボトル片手に部室に戻ると、葦木場くんの掛け声のもとパパンッとクラッカーが弾ける音がした。
それを皮切りに騒がしくなる室内、その騒ぎの中心に例の銀髪、紙製のとんがり帽子を被せられた黒田は照れ臭そうに鼻の下を指で拭っている。そんな様子をちらりと横目で見ながら、私はそれに参加せずに部室の端の椅子に腰掛けた。

雪成ユキ、プレゼントだよ」
「お、ありがとな塔一ろ...って重っ!
 んだこれ、は、ダンベル!?」
「アッブユキ!これで部屋でも筋トレ出来るよ!」
「お、おぉ...さんきゅな...」
「ユキちゃん、オレからはこれ!」
「葦木場のはえらくファンシーな包み紙だな...
 って何で黒猫のポーチだよ!?
 女子かっ!オレは華やぐ女子高生かっ!
 何に使うんだよコレ!?用途が迷子だよ!」
「ユキちゃんと言えば黒猫だし、何より可愛いでしょ?
 お菓子でも入れたらいいよユキちゃんっ」
「ポーチに菓子入れて持ち歩くとか女子力上げて
 どうすんだよ!誰がオレに可愛さ求めてんだよ...
 まぁどうにかして使うわ...サンキュー葦木場」

何これ、コント?私は傍観しながらそう思った。
箱学自転車競技部の威厳てやつはどこに行ってしまったんだろうか。仲が良いのはいいことだけどさ、なんていうかこう、それ寮に帰ってからじゃダメだったの?
しかも今日の主役は副主将、両サイドには主将とエース、3年生が部活を引退してしまって実質最高学年となった私たち2年生がこうやって率先して騒いでいれば、当然それを止められる人間はここには居ない。今日の部活はもう終わったし、少し盛り上がってしまったとして何か咎められるわけではないけど、戯れもほどほどにして欲しいものである。

「部活終わったとはいえちょっと騒ぎ過ぎだよー!
 はいっ、着替え終わってるなら各自帰寮帰寮!」

ちょうどそこにあったメガホンを使ってそう言うだけ言ってみたら、ハッと我に返った部員達は散り散りに帰ってった。号令一つでこんなにスムーズに行動出来るなんて、さすが誇り高き箱学自転車競技部!さっき威厳が無く感じられたのは黒田のせいだったわけね、しっかりしてよ副主将のくせに。

「で、千歳からは?」
「は、何が?」

なんて思ってたら噂をすれば影。どこか誇らしげな顔した黒田が私の前に立ちはだかる。何その顔むかつく、17歳になったからっていい気になるなバカ黒田。

「お前のことだし知ってたろ?部員の誕生日くらい」
「知ってたけど、だから?」
「ん」
「...何その手、
 何で私が黒田にプレゼントあげなきゃなんないの」
「ん」

ずい、と私に手のひらを差し出した黒田に怪訝に眉を顰めてみせるけど、黒田はその手をひっこめようともしなかった。私があんたにプレゼントなんて用意してるわけないじゃん。ちょっと考えたらわかるでしょ、バカなの?しかも誕生日プレゼントを寄越せだなんて、よくも自ら言えるもんだと逆に感心するよ。

「はぁ...しょうがないな、じゃあこれあげる」
「っちょ、千歳何やっ、おい!」
「ふーっ、はい全力で振ったベプシ」

さっき買ってきたばかりの未開封のペットボトルを黒田の前で全力シェイク、黒褐色の液体が外から見ても泡立っている。これだけ振れば開封と同時に爆発すること間違いなし。満面の笑みでそれを黒田に差し出せば、黒田は形容しがたい奇妙な表情を浮かべてた。ふふん、してやったり!

「はぁぁ!?普通に寄越せバカ!」
「貰っといて文句言うなバカ!いらないなら返して」
「っいるよ...」
「是非今飲んで欲しいんだけど?」
「飲めるわけねーだろが!」
「それは残念、折角プレゼントしてあげたのにな
 ま、あとで有り難く飲みなさいよね」

んじゃお先に失礼しますよっと鞄を掴まえて私は部室を後にする。
ーーー自然に振舞えてたかな、いつも通りの私でいられたかな。女子寮に向かう足が心なし早足になって、少しだけ顔が熱くなってきた。
この仕掛けに黒田がすぐ気付きませんように。


*


なんだアイツ、全力で振ったベプシって何だよ。
それに誕生日おめでとうの一言もねーしさ...ってまぁそれはオレが千歳に言って欲しかっただけだけど。
つーかなんでベプシ?ベプシつったら荒北さんじゃねーか、荒北さんの真似してベプシ飲むくらい荒北さんのことが好きなのかよ千歳。んだよベプシって、ポカリとかにしとけよクソ...
寮の自室に帰って扉を閉めたら頭ん中がそんな理不尽な憤りでいっぱいになった。プレゼント貰えただけ良しとしろよ雪成、変に勘ぐって荒北さんに嫉妬したってしょうがねーだろ。わかってんのにどうも感情のコントロールがきかねー、恋ってやつは恐ろしい。
あぁもうクソッ、んなもんさっさと飲み干してやれ!

「っ炭酸強!
 んなのよく全力疾走後に飲めるよな荒北さん...
 ん、何だこれ、何か書いて...?」

勢いに任せてキャップを捻ってボトルの中身を身体ん中に流し込んだ。シュワシュワ弾ける炭酸の粒が喉から食道を通って胃の入り口まで到達するのが手に取るようにわかる、いってぇな一気に飲むんじゃねーわコレ!
三分の一ほど飲んでからふとペットボトルを見ると、中身が無くなって透明になった部分に何か文字が書いてあった。黒のマジックで書かれた猫のマークと英字の羅列、オレはこの筆跡に見覚えがある。

「ウソだろ、まじかよ...」

オレがプレゼントを要求したから、渋々たまたま持ってたこれをくれたんだと思ってた。こんな仕掛け、ずるいだろ。なぁ千歳、もしかして全力でベプシ振ったのは、その場でこれを飲ませない為?オレにすぐ仕掛けを気付かせない為だった?

「っ可愛過ぎかよ...期待させんなバカ...」


Happy Birthday



モノクロ*ノーツ 番外編
BD#0204 / 2018.02.04

text menu
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -