「インハイ優勝おめでとー!カンパーイ!」

インターハイが終わったとある夏の日、総北高校自転車競技部室ではさやかな優勝祝賀会が行われていた。
残念ながら部費から費用が捻出されることはなく各自ジュースや菓子を持ち込こんでのパーティーで、机の上に所狭しと並ぶその中で田所パン特製ケーキが一際目を引いていた。テーブルの真ん中にドンと置かれたそれはインターハイ優勝カップと同じくらいに大きくて、乗せられたチョコプレートには"祝インハイ優勝!総北高校自転車競技部"と書いてある。インハイ優勝なんてまだ信じられないと思うけれど、ケーキの隣に置かれた金ピカを見る度にあぁ総北が勝ったんだなって実感が湧き出てくる。金のカップに映り込む皆の姿は笑顔で溢れていて、あの鳴子と今泉ですら今日はいがみ合うことなく笑っていた。心の底から思うよ、総北自転車競技部の一員で良かったって。

「はい、ここで私から重大発表があります」

そんな穏やかな空気の中で、ホワイトボードの前に立っていた3年生マネージャーの白崎さんが突然大きな声でそう言った。部員の全ての視線が彼女に集まって、部室内は一瞬にして静まり返る。

「えっ今?マジで行くんや千歳さん...」

小さく鳴子が呟いた。
ハッと気付く部員が半分、頭に疑問符を浮かべる部員が半分。そんなものにもお構い無しに白崎さんは堂々とした態度を崩さず、胸を張って言ったんだ。

「金城くん!好きです付き合って下さい!」
「っえ、は?」

ヒュー!と指笛を吹いたのは誰だろう、ドッと部室内が盛り上がるなかで名指しされた金城さんだけが戸惑っている。普段冷静沈着である金城さんが嘘みたいに眼鏡の中の目を大きく見開いて、かりんとうを頬張ろうとしていた口も開けっぱなしだ。かりんとうを持ち込むって趣味が渋いですね金城さん。というのはまぁ今関係ないか。

「はわわわわ...ついに言っちゃいましたね...!」
「まじか千歳、公開告白とか勇気あるっショォ...」
「はい手嶋くん司会お願い!」
「えっオレ!?えー、えと金城さん、お返事は...?」
「あ、受験だからって断るのはナシだからね金城くん」

体のいい退路も絶たれ、皆の注目を浴びる金城さんはただただその場で固まっている。石道の蛇ならぬ石化した蛇、なんちゃって。こんなこと言ったら今泉に誰が上手いことを言えと言ったんだと言われそうだな。

「っぐ...千歳、それは、今すぐでないと駄目か...?」
「んー、今すぐでなくてもいいけど
 引き伸ばしたって無意味だよ?私も洋南進学希望だし
 金城くんがOKっていうまで追っかけるだけだし
 私は決して諦めない女だから!金城くんと同じでね」
「ガハハ!千歳のが一枚上手だな!どうする金城ォ!?」
「...悪い、ちょ、ちょっと」

ぱちんと一つウインクを決めて微笑む白崎さんは可愛いのにどこか男前にも見える。田所さんの笑い声を聞きながら無言でひたすら頷いている青八木さんの横をほんのり顔を赤く染めた金城さんがロボットみたいなぎこちない動きをしながら通過した。テーブルの端の飲み物でも取りに行くのか、と思いきや金城さんはかりんとうを握り締めたまま一目散に部室を出て行く。金城さんの予想外の行動にあっけに取られる一同、固まった空気を打破したのは誰よりも早く我に返った鳴子の叫びだった。

「千歳さん!ブチョーさん逃げよったで!?」
「逃すわけないじゃん!みんな良い報告期待してて!」

その後を追って駆け出す白崎さんの身はやたらと軽く、すれ違いざま靡く髪の毛からふんわり良い香りがした。あんな強気女子に迫られたら流石の金城さんもひとたまりもないだろうな、なんてぼんやり思う。
他人事なのに他人事じゃないような、何となくそわそわと落ち着かないボクの隣で困惑したままの今泉がぼそり呟く。全く、今泉は自転車以外からきしだね!

「あの金城さんですら逃げるのか...」
「今泉、そういうのは理屈じゃないんだ
 ボクには分かるよ...
 なんたってボクは恋愛経験者だからね!」



blush / 2018.02.17

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