「おー、じゃまた明日なっ」

教室に残るクラスメイトにそう声を掛けて廊下に出た。
今日は青八木のクラスに寄ってから部室に行こう、青八木まだ教室居っかな?とか思いながら階段とは逆方向に歩を進める。通りすがる顔見知りにも挨拶しながら廊下を進んでいると、聞き覚えのある笑い声が聞こえた。声がしたほうを見てみれば、開いた窓の向こう側で千歳と東戸が楽しそうに笑ってた。

(お、珍しい組み合わせ。何話してんだろ
 つか千歳と東戸ってあんな仲良かったっけ...)

もやっとした何かが胸ん中に現れて、じわじわと全身に広がっていく。
気になるんならその話の輪に入って行きゃいいだけの話なのに、オレの居る廊下と窓の向こう側との間に見えない壁があるような気がしてオレはそれを傍観することしか出来なかった。横通ったら千歳が気付いてくれるんじゃないか、なんて期待を胸に少しゆっくり歩いてみたけど意味は無く、姿は見えなくなったのに千歳が笑ってる声だけクリアに聞こえる。なんだこれ、もしかしてオレ東戸に嫉妬しちゃってんのか...?

「っ!純太!」
「おー青八木、今行こうと思ってたとこ」
「?」
「あぁいや、なんでもねーよ。部室行こうぜ」

悶々とした思いを巡らせてたら、目的のクラスに着く前に青八木とかち合った。青八木迎えに行かなきゃあんなの見なくて済んだのかな、なんて思うとかどうかしてるよ。来た道引き返して西側の階段通った方が早いのに、オレはまた千歳のクラスの前を通るのが嫌で東側の階段を目指して直進した。連れ立つ青八木が不思議そうな顔してたけど、オレはあえて気付かない振りをする。青八木がそういうの突っ込んでくるタイプじゃないことに今日ばかりは感謝せざるを得なかった。

*

いつも通り部活を終えて、いつも通り帰宅した。ただ胸ん中のもやだけはどうにもこうにも晴れてくれず、ずっとオレに纏わり付いたまま、ベッドに入ってる今もそう。目を瞑れば鮮明にあの映像が蘇ってきて、オレはそれを打ち消すように何度も頭を枕に擦り付ける。後頭部がチリチリだよもう。明日髪の毛直すの大変だろな。
もし、もしだよ、もし千歳に好きなやつがいて、それが東戸だったらとしたら...あーいや、無し。やっぱ無し。そんな妄想しただけでもオレおかしくなりそうだ。可能性はゼロじゃない、けど、そんなの、

「あー!もー!どうすりゃいいのオレ...」

ぐるっと寝返り打って180度ローリング、今度は顔を枕に埋める。本当は気付いてんだ、そんなの簡単なことだって。直接千歳に聞けばいんだってさ。
あ、そうか聞けばいいのか、さり気なく。昨日何話してたんだって軽く。そうだな、それだわ。それで行こう。
そう思えば何かちょっと心ん中が軽くなった気がした。

*

そうと決まれば善は急げ、次の朝オレは自分の家の前で千歳が出てくるのを待っていた。あ、勿論髪の毛は入念にブローしたから寝癖はもう無い。この髪のうねりはただの天パだ。
昨日のあれを聞くだけの為に待ち伏せ紛いなことするって結構痛い?ふとそう思ってしまえば、やっぱ千歳待つのやめよっかなって怖気付いてくる。いやでも、あー、どうしよ、迷ってる間に隣の家の扉が開く音がして、いってきまーすって声がした。
タイムオーバーだ純太、腹ぁくくれ!

「えっ、純太くん?あれ、部活は?」
「今日からテスト週間だから休み」
「あーそっか、おはよう純太くん」
「はよ。一緒に行こうぜ千歳、久々にさ」



きみのとなり 6 / 2018.01.20

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