「ねー手嶋、私と付き合わない?」

昼休憩に弁当を頬張ってる時のことだった。
お、今日和風のり巻きチキン入ってんじゃんラッキー、とか思いながら昨日の歌ステの話で盛り上がってたはずなのに、クラスの女子に突然投げかけられた言葉に思わず箸が止まる。開いてた口だって開けっ放しだ。
え、何?何の話?急にどうしたんだよ。西垣カナの恋のウタの話してたから?歌の歌詞に影響され過ぎだって、冗談キツいぜ。

「お前なー、彼氏と別れたからって冗談、」
「冗談じゃないよ、本気」

ヒュー!とまくし立てる男衆、一部で天パこの野郎!とかいう野次も飛んでいる。突拍子もないことをオレに言ってのけたそいつはクラス内じゃ可愛いって評判で、いわゆるスクールカーストの頂点に君臨する系の女子だった。まぁそりゃそんな子に告白?みたいなことされりゃやっかみ受けんのも当然なのかもしれないが、ちょっと待て天パは今関係無いんじゃね?
オレの机の隣に立ってもじもじと照れ臭そうにしながらオレを見下ろす黒目がちのでっかい瞳、まーそんな目で見られりゃ大体の男は落ちるわな。でも残念、オレにはそれ効かねんだ。

「え?マジ?光栄だけど、ごめん無理だわ」
「なにそれ即答むかつくんですけど」
「わり、インハイあるしそんなヒマねーんだ」
「じゃあそれ終わってからなら?」
「終わっ...ても無理だなー
 オレ好きなやついるからさ」
「じゃあ最初っからそう言え馬鹿!」
「いって!ははっ、悪かったって!」

どっか自信ありげな顔してたのに、一瞬にしてそれは跡形もなく消えた。ふくれっ面してオレをぶん殴れる余裕があるってことは何となく消去法で決めました、みたいな、とりあえず彼氏が欲しいだけでした、みたいなことだろ?そーゆーのやめろよなぁ、オレ真面目に受け取って余計なこと言っちゃったじゃん。周りの好奇の目がいつの間にかオレに集まってるしさ、どーすんのこれ。弁当食いにくいって。

「手嶋の好きな子って誰?」
「ヒミツー」
「いーじゃん教えてくれたって」
「ダメ、言葉にすんのは本人の前でって決めてんの」
「うっわ、かっこつけーうけるー」
「カッコつけねーとカッコ良く見えねーからオレ」
「ははっ!言えてる!」
「そんなことないよって言うとこだろ今のはっ」
「で、好きな子って誰なの?ねぇねぇー」

あーもー、だからこれまでそういう話はぐらかして誰にも言わずにきたってのに。いつも通り笑ってるけどオレは内心これ以上突っ込まないでくれよって思ってる。好きだとか付き合うだとか、簡単に言えるような感情じゃねーのオレのは。なんて言ったらまた笑われんだろうから言わないけどさ。

「おっと、教科書返しに行かなきゃだったんだ
 ちょっと行ってくるわ」
「あっ、ずるい逃げる気?」
「ちっげーよ、マジで借りてんだってほら!
 その話はもう終いな!」

食べかけの弁当の蓋閉めて、ガタンと音立てて席を立つ。もうどっちにしたってこんな状況じゃ弁当食ってらんねーし、腹5分目だけどしょうがない。机ん中に入れてた千歳の日本史の教科書だけ持ってその場から離脱、良かった今日教科書忘れてきて。忘れ物して良かったって思うとか人生で初めてだよ。
早足で教室を出て行けば、オレが居なくなったその空間から盛り上がる声がした。オレの話じゃありませんように、万が一だったとしても頼むからオレが戻る頃には終息してますように、と願いつつオレは千歳のクラスに向かった。

*

「千歳ー」

隣のクラスまでの短い道中、普段会わない顔に出会ってつい話し込んじまった結果、昼休みが終わるギリギリになってしまった。そっと窓開けて名前を呼ぶと千歳は既に席に着いていて、オレを見上げると唇を尖らせた。

「あっ!もー純太くん遅い、忘れられてるかと思った」
「わり、ちょっと絡まれてた。教科書さんきゅな」
「はい、どういたしまして」

そんな顔も少しだけで、教科書を手渡せば千歳はふんわり柔らかく笑む。怒ってみせるのは形だけなんだよな。千歳はいつもそう、どこまでも優しいんだ昔も今も。そういうとこがさ、オレは好きだよ。

「ん、どうかした?」

そんなこと思ってたらつい押し黙ってオレは千歳を見つめてた。不思議そうに首傾げる千歳に思わず口がすべっちまう。

「千歳ってさ───」

好きなやつ、いんの?
タイミングよくオレの言葉に被さって予鈴が鳴る。高3にもなるんだ、好きなやつの一人や二人、きっといるんだろうな。って自ら落ち込みに行ってどうすんだ馬鹿だなオレ。

「え?ごめんチャイムでよく聞こえなかった」
「何でもねーよ、んじゃオレ戻るな」
「あ、うん、じゃーね」

千歳の耳に届かなかったのは幸いなんだろうか。オレはもう一度聞くことはせずに千歳に手を振った。

今日のこの出来事がオレが望んでたきっかけになるんだなんて、この時のオレはまだ気付いていなかった。



きみのとなり 4 / 2018.01.15

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