ん?
今日はいいことがあるような気がしたはずなのに鞄の中にも机の中にも探し物がないとはどういうことだ。あ、そいや昨日持って帰って机の上に出したっけ、置きっぱなしで来ちゃったか。あちゃー、やっちまった。
予鈴は鳴っちまったけど、ダッシュで借りに行けばまだ間に合う。オレは急いで隣のクラスへと走った。

*

予鈴が鳴って、私は自分の席に着く。
机の中から教科書のノートを取り出して次の英語の授業の準備をしていると、閉まっていた窓ガラスが急に開かれた。みんなが席に着き始めるこのタイミングでまさか廊下から訪問者が現れるなんて思ってなくて、びっくりしながらそちらを見ると、更に驚いたことに窓を開けた犯人は今朝会った私の想い人だった。

「東戸いる?」
「わ!びっくりした、純太くんかぁ
 東戸くんなら...あれ、居ないみたい」

ひょこっと黒のウェーブヘアを揺らしながら純太くんは教室を覗き込んだ。
廊下側後ろから3番目のこの席が私の席と知っててこの窓を開けたんだろうか、もしここが私の席じゃなくて他の誰かが座ってたとしたら、え、誰!?ってなること請け合いだよ。幼馴染の私でさえ心臓が飛び出るくらい驚いてるのに、当の純太くんは悪びれもせずキョロキョロと教室内を見渡していて、私もそれに倣って純太くんが呼んだ彼を探すけど何故か東戸くんの姿は無い。純太くんといい、東戸くんといい、もう予鈴が鳴ってるのに席に着いてないなんて何してんだろ。男の子ってわかんないや。

「ありゃま、日本史の教科書借りに来たんだけどなぁ」
「私ので良かったら貸そうか?」
「マジ、いいの?助かる」

なるほど、忘れ物だったのかぁ。
私が純太くんにそう提案すると、困った顔が一変してぱっと明るくなった。う、わ...そんな顔で見られたら何だか恥ずかしくなっちゃうな、って純太くんを意識し過ぎだよ私。
こんな時間ぎりぎりに来ちゃだめじゃんって付け加えれば、今さっき気付いてさって純太くんは照れ臭そうに笑う。出掛けててくれてありがとう東戸くん、純太くんと話す機会増やしてくれて、なんて私は心の中で思ったりして。

「日本史ね、はいどうぞ」
「サンキュー千歳」
「今日うちのクラス日本史5限だから
 それまでに返してね」
「りょーかい、じゃ昼休みに返しに来るな」

分厚いA5サイズの本を取り出して彼に手渡すと、教科書の角を唇間近に添えながら純太くんはニコリと私に微笑んだ。
わ、わ、純太くんと私の教科書がキスして...っわぁぁ!
光を背負ってるわけでもないのに純太くんが眩しく見える。きっと純太くんのそれに意味なんてないんだろうに私ったら過剰反応しちゃって、あぁもう、変な顔になってませんように。

「純太くん、落書きは禁止だよっ」
「ははっ!善処する!」

窓から廊下に身を乗り出して、私に背を向けて小走りで去ってく純太くんにそう言うと、顔だけ振り返った純太くんはバチンとウインクを決めた。本鈴が校舎に鳴り響くなか、椅子に座り直した私の口からため息が出る。

(誰にでもそんな顔しちゃだめだよ純太くん...)

特別なことじゃない、純太くんスタンダードだって分かってるのに今日も私は純太くんに翻弄される。日々重症化していく恋の病はもう私の手には負えなくて、深い深いため息をもう一度吐くことしか私には出来なかった。



きみのとなり 3 / 2018.01.14

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