隣家の扉が開く音が微かに聞こえた。
眠い目を擦りながらベッドから出たばかりのことで、慌てて壁にぶら下がる制服を手に取った。ナイトウェアはベッドの上に脱ぎ捨てて、着用した黄色いプリーツスカートのジップを上げる。窓の外からカラカラと車輪の回る音が、わ、わ、急げ、もう行っちゃう!
リボンもせずに部屋を飛び出して階段を駆け下り、軽く髪の毛を整えながら玄関へまっしぐら。扉を開けると眩しい朝日が差し込んでくる。何食わぬ顔を作って門扉まで数歩、ポストの取手に触れると同じく隣の家の門扉の前に立つ彼と目が合った。

「お、千歳はよ」
「おはよ純太くん、今日も朝練?」
「そ。んじゃオレ先行くな」
「行ってらっしゃい、また学校でね」

返事の代わりに右手を挙げてひらひら振ると、自転車に跨った彼はあっという間に視界から消えてった。この一瞬だけの為に早起きして制服に着替えて私家では新聞回収係なんだって嘘付いて、そんな小学生みたいな家庭での役割今更あるわけないのに、私は今日も自らこの灰色の紙の束をリビングまで運ぶのだ。そんなことしてでも純太くんに少しでも関わりたい、なんて、高校3年生にもなって私は何をしてんだろ。

生まれたときからお隣さんで、気付けばいつも純太くんが傍にいた。幼稚園小学校中学校と、アルバムを開いてみればどこを見たって純太くんが居るくらい、一緒にいるのが当然だった。いつも笑顔で優しくて、困ってたらさり気なく手を差し伸べてくれる純太くんは私のヒーロー、今までもこれからも。私が純太くんを好きになるのは必然で、いつ好きになっていつから片想いなのかも分からない。ただはっきり言えるのは、家族愛でも敬愛でも錯覚でもなく、これがれっきとした恋なのだということだ。そしてこれが私の初恋でもある。長いなぁ私の初恋、こんなに長くちゃもう初々しさなんかないのにね。
純太くんを追っかけて総北高校に進学したのに、高校生っていう思春期に突入したからなのか純太くんが自転車競技場に入部したかなのか、純太くんとの関わりはめっきり薄くなってしまった。中学までと比べてだから一般的にはそうでもないのかもしれないけど、私にとっては一大事である。だからこうして純太くんが朝練に行く時間に合わせて新聞を取りに来る振りをして3年目。もっと努力すべきことがあるだろうに、それ以上何も出来ずにもう3年目。情けないなって思ってる、でも今の関係が壊れるくらいならこのままでいい。初恋は叶わないっていうのならそれでもいい、変わらず傍に居れるなら。

───って馬鹿だよね私、そんなこと思ってたなんて。
純太くんに好きな人が居たら、彼女が出来たらなんてこと、考えもしてなかったんだから。



きみのとなり 1 / 2018.01.10

next 2→
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -