その場で叫びそうになる口を咄嗟に押さえて、また自販機裏に身を隠す。荒北が、あの荒北が、女子高生と待ち合わせじゃと...!?どうなっとんじゃ、何があってそうなったんじゃ!女子高生ゆうても色々種類があろうに、よりによってあがぁに清楚なお嬢様系女子高のJKを選ぶたぁエエ趣味しとる。も一回自販機の向こうをそっと覗いてみりゃ二人の背中がえらい遠くなっとった。いけんいけん、こんなトコで悶えとっても仕方なかろう、はよ追わにゃ!
人やら看板やらに隠れつつ、野獣の嗅覚に引っかからん程度の距離を維持したままワシは荒北の後を追う。余談じゃが荒北の嗅覚いうんか野生の勘いうんか、まぁどっちでもええが、皆が思っとるより大分ヤバいけぇ。荒北のそれは人の域を超えとる、人知を超えたって言葉があるがまさにそれじゃ。そのせいでちぃと前に痛い目にあってしもーたワシの話は...あえて聞かんとってくれ。たちまち荒北じゃ、今大事なんは。
こそこそ後をついて行っとると、二人は一人掛けの椅子が並ぶベンチに並んで座った。どうするワシ、この位置じゃ会話が聞こえん!じゃがこれ以上近付くんははっきり言って危険じゃ。尾行が荒北にバレたら惨劇になるんは目に見えとる。じゃけぇてここで日和るんはぶちふうがわりい。
出来りゃ荒北らの裏側の、背中合わせに並ぶ反対側のホームのベンチにワシは位置取りたいんじゃが。じりじりとぎりぎりの距離を詰めながら荒北から目を離さんワシの横を快速電車が通り過ぎた。っこれじゃ!暴風と電車の通過音でいっぱいになっとる今がチャンスじゃ!ちぃと身を屈めて出来るだけ物陰に隠れつつ素早く目当てのベンチに滑り込む。パーカーのフード被って頭隠して、今日この服着てきてよかったワ!バレとらん、バレとらんで!

「チャリの大会出んだよ、美鈴湖の」
「そうなんですか、週末の天気はどうだったかなぁ...
 ところで自転車のレースって何するんですか?」
「チャリのレースってのはぁーーー」

会話もバッチリ聞こえるし、ミッションクリアじゃあ!って何の話しとんじゃ荒北ァ、アホじゃないんかワレ。どしてそこでレースの解説始めるんじゃ、美鈴湖なら比較的近いほうじゃし、応援に来てくれぇ言うんがフツウじゃろ!チャリの話なんかしたところで女は楽しくないんじゃって知らんのか、これじゃけ童貞は!

「って、ンな話、楽しくねーよな」

その通りじゃ、気付くのが遅いで荒北ァ!こりゃ振られたかもしれんのぉ?エッエッ、

「そんなことないですよっ!
 荒北さんの話、私、好きで...す...」

エェェェェッ!?
まさかの脈アリじゃと!?

「お、おぉ...あんがとネ...」

バッ...荒北ァー!!何がアンガトネじゃあ!今まさに攻め時じゃろうが、お前今そのかわいこちゃんに好きじゃ言われとんじゃろが照れとる場合かー!荒北さんの話、じゃのうて、こりゃ絶対荒北さんが好きなヤツに決まっとるけぇ、気付け荒北ァー!

「あー...オレの話ばっかじゃなくてサ、
 白崎チャンの話も聞かせてよ」

ェエエエエエエ!!?
違うじゃろ何言うとんじゃ荒北、自ら話題変えんなやボケェ!付き合いたてで何話したらええんか分からん中坊じゃあるまいし...ってもしや荒北、既にこの子と付き合うとるんか?じゃけぇそがぁにどことなく甘酸っぱい雰囲気を醸し出しとるんか!?嘘じゃろ嘘じゃって言うてくれ、野獣の彼女がJK?美女と野獣ならぬ美少女と野獣って言うんか、エェ?どしてじゃ、どうやったらそんなことになるんじゃ?ワシもJK連れて外歩きたい、とか言ったら佳奈にシバかれるの。ワシにゃ佳奈が一番じゃけぇ!あーでもワシもあがな清楚な女子高生と仲良うなりたいのう、せこいで荒北ァ自分だけ!

「行こうぜ、白崎チャン」
「はいっ」

なんて僻みよったら気付けば電車が到着しとって、荒北とJKはその電車に乗ってった。あり得ん展開に混乱しとる間に荒北らの会話聞き逃してしもうたし。白崎チャンとやらは荒北に何の話をしたんじゃろか、JKの日常の話か?それともデートの約束でもしたんじゃろうか?なんたる失態じゃ、せっかく荒北にバレずにここまで来れたっちゅーに!
こりゃ明日糾問せにゃいけんのう、ェエ?洗いざらい吐いてもらうけぇの、覚悟しとけぇよ荒北ァ!


[ 広島弁翻訳補足 ]
*あがぁに、そがぁに→あんなに、そんなに
*たちまち→とりあえず
*ふうがわりい→かっこ悪い
*せこい→ずるい


AとJK 3.5-3
待宮栄吉は見た 3 / 2018.01.06

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