*/ AとJK 3-3 の後の話です /*


「ンじゃお先ィ」

荒北の口から出てきたのは、いつも通りの聞き慣れた別れの言葉じゃった。じゃがそれがいつもと違うと気付くんはぶちみやすいことで、荒北おどりゃその顔どしたんじゃあ?ワシや金城に向けて言ったモンにしちゃえらいやわいツラしてからに。そのツラどっかで見たことあるような気がするのぉ...
あ、例の福チャァンに向けるそれによう似とる。

「...金城ォ、見たか荒北のあの顔」
「あぁ」
「何か怪しいのぉ...ニオウのぉ...」

野獣に似合わんいちごキャンディ詰めたカバン引っさげて、講義室の段差を小走りに近いステップで駆け上がってく荒北の背中は心なしか浮かれとるようにも見えた。
ワシらに見られるんが嫌じゃったんじゃろう貰いモンのいちごキャンディ、大方誰に貰ぉたんか聞かれとぉなかったってとこじゃろ、想像に難くないわい。しかもあの自転車バカが自主練もせんと早足で帰るじゃと?そがなん怪しいニオイしかせんじゃろーが。こりゃあ何かあるで絶対、エェ?

「そいやぁワシも用事あるんじゃった忘れっとったわ!
 金城、わりぃがワシも先に帰るけぇ」
「...そうか、気を付けて帰るんだぞ」
「ほいじゃあの、金城!」

石道の蛇の嗅覚も何かしらを嗅ぎ取ったんか、目の前の坊主も口元にどことなく含み笑いを浮かべとる。これから何するか分かっとるんじゃろうにあえてワシを止めんとこを見る限り、金城も荒北の動向が気になっとんかのぉ。ありゃ分かりやす過ぎじゃけぇ気になるんも当然じゃが。まかせぇや金城、ワシが見てきちゃるけぇ!まぁ万が一良心に咎められた金城がワシを止めようとしたとしてもワシは止まらんけどの!エッエッエ!
もう雨は上がったゆうても今日は朝からずっと雨が降っとった。ということはワシ同様荒北も今日は徒歩通、荒北んちは二駅先じゃから向かった先は恐らく駅じゃ。エッエッ!ぶちおもろぉなってきたでぇ、こりゃ急いで後を追わにゃいけまぁ!
講義室から出てく学生でわやになっとる出口で上手いこと人を避けながら、ワシは駆け出したい気持ちを抑えつつ駅までの最短ルートを急ぐ。浅い水溜りを踏んづけて跳ねた飛沫がスニーカーに染み込んでったが、そがぁなことはお構いなしじゃ。一刻も早くあのガニ股黒頭を見つけにゃおえんけぇ!


[ 広島弁翻訳補足 ]
*ぶちみやすい→とても簡単
*おどりゃ→お前
*やわい→柔らかい
*ほいじゃあの→それじゃあね
*追わにゃいけまぁ→追わなければいけないでしょ
*わや→ごちゃごちゃ、めちゃくちゃ
*おえんけぇ→だめだから、いけないから


AとJK 3.5-1
待宮栄吉は見た 1 / 2018.01.03

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