異変が起きたのは、一駅目を通り過ぎてからだった。

ただでさえ混雑した車両に更に人が増えるなんて、なんの苦行なんだろう。
さっきとは反対の扉が開くと、さほど降りる人はいないのにもかかわらず多数の人が乗車しようと押し寄せてきた。次の駅でもこうなのかなと思うと気分が滅入る。
扉が閉まり、ゆっくりと動き出した電車は次の駅へとスピードを上げていく。

電車が揺れるたびに何かが足に触れるのは何なんだろう?後ろのサラリーマンの鞄か何かだろう、最初はそう思っていた。
おかしいと気付いたのは、触れる異物が少しずつ場所を変え、遂にはお尻あたりを刺激してきた頃で、鞄でガードしようにも両手で抱き抱えた状態のそれを動かせるほどのスペースはない。
気のせい、たまたま、わざとじゃないよきっと。
そう言い聞かせて平然とした装いをしてみるが、異物感の正体が誰かの手であると脳が認識したことで体のざわめきが止まらなくなる。

(どうしよう、どうしよう...)

噂には聞いていたけど実際に出会うのは初めてで、こういうときはどうするんだっけ、思い出せ!
...思い出したいのに思い出せない、凍結した思考回路と格闘している間にじわりじわりとせり上がっていくスカートの裾、パニックで叫びたいが声は出ない。
そんな中、電車が大きなカーブに差し掛かり車両はガタンと大きく揺れ、その瞬間お尻の異物感から解放された。
ほとんどの乗客が衝撃に耐えられずよろめいていて、異物の主も例に漏れなかったんだろう、走行アクシデントがこんなにも嬉しかったことはない。
ホッと胸を撫で下ろし、スカートの裾を直そうとした瞬間、生暖かい異物が太ももに直に触れた。

「...っ!!」

声にならない叫びは電車の走行音にかき消されて、ただされるがまま、俯いて耐えるしかなかった。



AとJK 1-4
声にならない / 2017.05.04

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