某月某日、此処は地獄、閻魔庁本殿。
亡者の裁判は恙無く進行し、閻魔大王も珍しく仕事熱心でここ数日多少のトラブルはあったものの特筆した問題もなく八大地獄の業務は至って順風満帆だった。
浄玻璃の鏡に映る生前の映像を見せつけられて己の黒歴史を嘆く亡者を傍観しながら、つらつらと筆を動かす。そうこうしている間に今日も裁判もこれにて終了、終業の合図のように手にしていた巻物を素早く丸めて掌に叩きつける。
毎日がこれくらい平穏であれば楽だろうに。

「鬼灯様大変です、八寒地獄で異変が!!」

ーーーまぁ、そんな日々が続く訳ないんですけど。
閉廷と同時に裁判の間に一人の獄卒が声を張り上げながら駆け込んできた。
だだっ広い空間を劈くそれはまごうことなき平穏クラシャー、その先の話を聞かなくとも想像はつく。
というかそこに地獄の管理者である閻魔大王が居るのですから先ずはそちらに報告すべきじゃないですか?何かあれば皆直ぐに鬼灯様鬼灯様と、私は万能神か何かではないというのに。そもそも大王が頼りないから私に仕事が集中するんでしょうが!
和かに高座に鎮座するト◯ロをぎろりと睨み付けるが、駄目だ此奴、この後孫に会うんだとか周囲の獄卒に言いながら浮かれてやがる。今日はよく働くと思ったらそういうことでしたか、道理で。
これ見よがしに深く深く溜息を吐いたが、お孫様トークを始めた大王の耳には届かなかった。

「...異変とはどんな?」
「八寒本部を中心に
 獄卒がどんどん倒れていっているそうです!」
「原因は」
「それが未だ解っておらず...
 これでは八寒運営に支障がっ」

何ですか、そのざっくりした報告は。
八寒が今兎に角大変なのだという事は、はぁはぁと
息を切らして慌てている貴方の様子で察せはしますが、どうしましょう!?とか問われましても現状を把握しきれていない私には対処しかねます。
例えばその獄卒が次々倒れる原因が病の類だとしたら私が行くべきではないですし、だからといってこの状況を放置するわけにもいきませんし。
さて、どうしたものか、閻魔大王の反応は?
ちらりと大王を見遣ったが、相変わらず大王は脳内
お花畑の御様子でへらへらと笑いながら未だお孫様がどうのこうの言っている。
お前話聞いてたのか!!と一喝しそうになったが、はぁもういいです、どうせ時間の無駄でしょう。私が八寒に行って現状を確認する他ない。
残業確定、致し方無しです。

「はぁ...わかりました、どうにかします
 大王!私が八寒を見に行ってきても?」
「あぁうん、鬼灯くん宜しく頼むね
 それでね、うちの孫がね...」

部下に仕事を押し付けて孫トークを続行するとは大王は何て良い身分なのでしょう、私も舐められたものです。
今日はそんなことをしている暇はないので勘弁してやりますが、八寒から戻ったら大王釜茹で百分耐久、一ヶ月蒟蒻料理生活、あぁ屎泥処で一日亡者体験させるのもいいですね。
そんなことを考えながら、私は閻魔大王に背を向けて早足で閻魔殿をあとにする。

「チッ...チャンバラとかしてテンションの上がった
 お孫様に玉一つ潰されろ」
「ねぇ今何か言った!?
 今何か恐ろしいこと言ったよね鬼灯くん!?」

閻魔殿を支える朱の大柱を数本過ぎたとこで呟いたというのによくもまぁ聞こえたものです、閻魔の地獄耳というのは恐ろしい。
呪いの言葉を一つ残して向かうは八寒、その時の私は未だまさかそれが実在するとは思ってもみなかった。



色鬼の氷結 弐ノ壱
閻魔大王ノ孫 / 2017.11.19

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