上りの階段を何度折り返しただろうか、最初は早足で登れていたのに緊張と運動不足で息は上がるし心臓はドコドコ煩いし、ずっしりと重くなった足はどんどんスピードを落としていく。
登り坂が得意な巻島くんは階段を登るのも得意なのかな、なんて思いながら手すりを掴んで身体を腕で引き上げて、階段の最後を折り返し、左向け左をして先を見上げると十数段の段差の向こうに屋上へと繋がる扉があった。
人気なく静まり返る薄暗い空間に、ぺた、ぺた、という私の足音と、やたら早く脈を刻む心音が無駄に響く。
分厚い金属でできた扉のノブにそっと触れると、緊張で固まった私の指先と同じくらいひんやり冷たい。ゆっくりとそれを回してぐっと扉を押し開けると、開いた扉の隙間を抜ける風と一緒に真昼の眩しい光が差し込んできて、一瞬それに目が眩んだ。
どうしてこんなにも重いんだろうか、それなりに力を込めているつもりなのに扉は半分も開かなくて、私は横身をすり抜けさせるようにして屋上に出た。
ゆるやかに閉まっていく扉を背に数歩進んで左右を見渡したけど、目に映る緑は茂る木々のものだけで屋上に私が探している姿はない。
田所くんの嘘つき!ってもし言ったとしたら、田所くんはきっとまたガハハと大きく笑うんだろう。もちろん彼を責めるつもりはないけれど、屋上までの移動に時間をかけたお陰で昼休みも終わりが近い。
今日はもうこれ以上巻島くん探しは出来ないかなと思うと強張ってた体から力が抜けて、がっくりと肩が落ちた。
昨日巻島くんを目の前にして日和ってしまった私が悪いのは分かってる。でも放課後は巻島くんは部活だろうしチャンスは昼休みしかなかったのに、今この瞬間のために昨夜から構築してきた覚悟とか気合いとか、その他諸々の努力が全部無駄になってしまった気がして、私は落胆と共に空を仰ぐ。
晴天が背中を押してくれたのは田所くんのところまでだったのかな、私の良い予感なんて気のせいだったんだ。
短く溜め息を吐きながら回れ右して上靴の爪先を見つめながらあの重い扉までまた数歩、ドアノブに手を伸ばすと銀色の突起物を中心に据えた視界の隅っこで何かが動いた。

「...よぉ、白崎」
「ま、きしまくん、」

灯台下暗しっていうのはまさにこのことで、私が探していた彼は緑の髪を風で揺らしながらそこに居た。すっかりその気を無くしてしまっていたのに巻島くんの存在に気付いてしまった今、唐突に心臓が暴れ出す。
彼は扉横の壁に寄りかかるようにして地べたに座っている。そこは階段側から扉を開けるとちょうど死角になるところだ。
あー成る程、成る程ね、そういうこと...
頭ではわかっているのに現状を受け止められない。
えーと確か私は巻島くんを探してたはずで、それで、

「...いい天気だな」
「あ、うん、そうだね、今日はすごくいい天気」

放心状態で立ち尽くす私が何も言えないものだから、巻島くんが気を利かせてか話を振ってくれた。それがよくある話のネタがないときの定型文だとしてもその気持ちがなんとなく嬉しくて、じわりと心が温まる。

「すぐに声掛けてくれたらよかったのに、
 こんなとこに隠れてるからびっくりしちゃった」
「別に隠れてるつもりは...
 白崎が気付かなかっただけっショ」

まぁ、うん、そうだね、巻島くんの言う通りだ。
返す言葉もなく私はまた押し黙る。
どことなくテンションの低い巻島くんはフェンスの向こうに広がる景色を眺めたまま、アンニュイな横顔が綺麗だった。
私が巻島くんを好きだからそういうフィルターがかかって見えるのかもしれないけど、すごく、綺麗だった。



サイハテ 08
灯台下暗し / 2017.11.18

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