あきちゃんは犬だった。

あきちゃんは、犬だった!

勇気を出して聞いて良かった...
あきちゃんは荒北さんの彼女じゃなかった!
彼女と仮定してたあきちゃんに似てるなんて言われて落ちてた気分も急上昇、ってあれ?私もしかして犬に似てるって言われてるのかな?
でもメアドに入れるくらい大事にしてるわんちゃんなんだよね、それならこの際私は犬でも何でもいいです荒北さん。
犬扱いされても撫でてもらえるのなら本望、いっそあきちゃんになりたいくらい、なんて言ったら言い過ぎかな。
しかも荒北さん彼女居ないって、これまで居たことないって、うそだぁ、こんなに格好いいのに?
当の荒北さんは失言だったみたいな顔してガシガシと頭を掻いている。荒北さんに彼女が居なくて嬉しいですとは思ってても流石に言えないし、代わりに私も一緒ですって言ったら、安堵したかのように荒北さんの表情は柔らかくなった。

(荒北さん彼女居ないんだ...
 そっかぁ...へへ、そっかぁ...)

あんまり笑うとこじゃないだろうに、嬉し過ぎて私の表情筋は緩みっぱなしだ。
ただでさえ今回のテストでいい点取るのはマストだっていうのに、そんなこと聞いたら尚更絶対マスト中のマスト、スマホGETはネセサリー。
心臓は相変わらず煩いし、荒北さんが視界に入るだけで胸は苦しいけど、数式なんかやっつけてやる!と意気込みだけは一丁前に、鞄から引っ張り出したテキストとノートを素早く広げて、筆箱から取り出したペンを握る手に力がこもる。
まるで目の前ににんじんをぶら下げてる馬みたいに、私は輝かしい未来に向けて全力疾走している気分だった。

*

店内に流れるBGMのリズムに合わせてカリカリと音を立てながらシャープペンシルが紙の上を走る。
駅で格闘していた例の問題をそっくりそのままノートに書き写したところで、さっきと同じ店員さんがやって来て注文した品物が卓上に並んだ。

「わかんなくなったら言えヨ?」

そう言って荒北さんは目の前に置かれた唐揚げを口へ放り込む。
その大きさを一口で?わぁ...男の人ってすごい。
白崎チャンも食べる?って問い掛けに首を横に振ると、荒北さんは6個あった唐揚げをあっという間にたいらげた。
一方の私はといえば、荒北さんの食事姿に圧倒されて問題はまだ解けてないどころか寧ろ手付かずに近かった。
いけないいけない、集中しなきゃ。
躍起になって手を動かす私の前で今度はポテトに手を伸ばす荒北さん、ポテトの山の標高はどんどん低くなっていく。
荒北さんのいう小腹ってどれくらいなんだろう、そんなに食べて晩御飯食べれるのかな...

「荒北さん、あの、」
「ン、どこォ?」
「この問題の、これって」
「アー、交点の座標求めたら次はァ...」

ノートに書いた解きかけの問題、塩気のついた指先を舐めながら私が指した場所を荒北さんが覗き込む。
少し目を細めて、その手は口元に置いたまま、さっきまで唐揚げを頬張ってた荒北さんの薄い唇が数式の呪文を唱えてる。
ついそれに目がいってしまって、荒北さんの解説は一切の足跡も残さずに私の頭の中を通り過ぎてった。

「...って感じなんだけど、わかったァ?」
「っえ、えーと...」

説明が終わって顔を上げた荒北さんと目が合って、慌ててノートに視線を落とす。荒北さんに見惚れてて聞いてませんでした、なんて言えない。
あぁもう私は何をやってるんだ、目先の幸せより今後の幸せに向けて今努力しなきゃいけないのに。

「口で言うんじゃ分かりにくかったァ?
 ンじゃ実際解きながら説明すんね
 白崎チャン、ペン貸してェ」

言われた通りに私が使っていたシャーペンを渡すと、それを持った荒北さんの右手がノートの上で動き出した。
開いたノートの右側に逆さまの文字が紡がれる。罫線いっぱいの大きな文字、同じシャーペンで書いているのに私の文字よりも濃く見えるのは筆圧の違いなのかな。
今度はちゃんと解説を聞きながら解読されてく数式を見つめていると、分からなかったはずの問題が一気に脳内で花開く。
筆箱からシャーペンをもう1本取り出して、それで閃いた数式を書きつけた。ノートの左半分で解きかけだった問題が嘘みたいにすらすらと解けていく。

「あっ、わかった!
 これがこうで...荒北さん、あってますか?」
「正解、やるじゃナァイ白崎チャン
 この調子で次の問題もやっつけちまえヨ」

解を最後に大きく書いて、ノートから視線を離して顔を上げると、荒北さんは私を見て笑ってた。問題が解けたことよりも、私は荒北さんに褒められたことが嬉しい。
次の問題自力で解けたら、もっと褒めて貰えるのかな...
なんて思う私は、荒北さんに犬みたいって言われてもしょうがないのかもしれない。



AとJK 4-6
謎は全て解けた / 2017.11.11

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