決戦の日、来たる。
というと大袈裟かもしれないけど、私の心情としてはそんな気分だ。
電車に乗って、バスに乗り換えて、いつもの道をいつものように行くだけなのに、学校が近付けば近付くほど緊張感が高まっていくのがわかる。
スピードに乗ったバスの車窓を流れる景色の中に今日は彼の姿は無く、何だか少しホッとした。あの緑色がちらりとも見えてしまえば私はきっと余計緊張してしまうから。でも自転車に乗って髪を靡かせる巻島くんを見たかった、とも思うのは矛盾なのかな。
タンッと勢い良くステップを蹴って、アイドリングしているバスを背に空を仰ぐと、雲一つない空は朝のすっきりした空気に似合う綺麗な天色をしていた。
天候も私の背を押してくれている。なんとなく、そんな気がした。

*

そわそわと落ち着かないまま午前中の授業は終わって、校内にチャイムが鳴り響く。待ち侘びたお昼の時間、私は鞄の中からおにぎりを2つ取り出して、友人たちが集まるのも待たずそれにかぶりついた。
今日はゆっくり食べている暇なんてない、食べ終わったらすぐに教室を出てった巻島くんを探さなきゃ。
昼休憩になるとすぐに何処かへ消えてしまう巻島くんはいつもどこでお昼を食べているんだろうか、私の中の巻島七不思議の一つだ。

「よし、ちょっと行ってくる」
「え、どしたの千歳、何何?」
「内緒っ!」

小さめに握った三角おにぎりの最後の一角を飲み込んで、私は気合いを入れて席を立った。
教室から飛び出して、まずは前に彼を見かけたことのある中庭を目指す。道すがらの校内はざわざわと騒がしいのに、私の耳には体内を巡る血液の音が聞こえてる。酷く緊張しているのに不思議と頭の中は冴えていて、横を通った1年生のブレザーの袖のボタンが取れかけているのに気付くほど、視界はやたらと鮮明だった。
中庭に着く頃には、はやりっぱなしの心臓と食後の早足のせいで内臓が痛くなっていて、いよいよ緊張も最高潮、多少グロッキーながら中庭を見渡したけどそこに彼の姿はなく、気張ってた体から力が抜けていく。
その代わりに大木を囲むように造られたベンチで大量のパンをひたすら食べ続ける大柄の男が目に付いた。
えっと確か田所くん、巻島くんと同じ自転車部の。

「あの、」
「あ?何だ、オレに何か用か?」
「巻島くん、知りませんか」
「巻島ぁ?巻島なら多分屋上だろ
 今日みたいな日は大体そこに居るぜ」

むしゃむしゃとカットもされていない大きなサンドイッチを齧る田所くんに、ありがとうとお礼を言って踵を返す。
なんか知らねーけど頑張れよ!って声がして後ろを振り返ると拳を上げて田所くんはガハハと豪快に笑ってた。
気恥ずかしさで赤くなる顔を隠すように、田所くんに軽い会釈をして私は屋上へと歩を早める。
見た感じ熊さんみたいで怖かったけど、いい人だったな田所くん。それにしても何でこれから私がしようとしていることが分かったんだろう、そんな分かりやすい顔してたのかな。
熱い顔を手で押さえながら、私は屋上までの階段を
一段一段噛み締めて上ってく。
巻島くんに気持ちを伝えるカウントダウンみたいに。



サイハテ 07
決戦の日 / 2017.11.08

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