ぷんぷんと熱気を放つゴキゲンナナメの黒田は私たちに背中を向けると足早に去っていく。
せっかく葦木場くんが遊びに来てくれたのに、って他のお客さんには執事の皮被って対応してる!
文字通りの猫被り。それはある意味凄いけど、余計感じ悪いったらないな。
「...千歳ちゃん、なんか、ごめんね?」
「え?こっちこそ、黒田が態度悪くてごめんね」
葦木場くんが謝ることなんてないのに、書生姿の巨体は私の隣で身を縮こませて申し訳なさそうな顔をする。
プライドの高い生き物ってのはなんて面倒臭いんだ。先輩たちの猫耳弄りなんて笑って流せばいいのにねって言いながら葦木場くんを見上げると、彼はハの字の太眉を持ち上げて、くりんとした瞳を丸くしていた。
「千歳ちゃんって結構鈍いんだぁ...」
「な、なにが?」
「何でもないよー、じゃオレ、クラスに戻るね!」
鈍いって一体全体なんのこと?
葦木場くんの言う意味が私にはさっぱり分からない。
疑問符を浮かべる私にコロッと表情を変えた葦木場くんは微笑むと、頭を屈めながら教室を出て行った。お茶しに来たんじゃなかったのかな、後々になってケーキ食べるの忘れてた!とか言うんじゃないかと少し心配になる。
とはいえ葦木場くんの天然はいつものことだ、念のためケーキは1つ包んでおこう。こちらを見ている旦那様お嬢様方にニコリと笑みを振りまきながら、私はキッチンスペースになっている教室の角へと移動した。
「ケーキ1つ貰ってもいい?」
「いいよー!ついでに千歳
そろそろ休憩行っておいでよ、これ持って」
「こ、これは...!」
*
「おもてなし喫茶でーす、可愛いメイドと
イケメン執事があなたをおもてなししまーす
いかがですかぁー?」
「っすかー」
学園祭ということもあってか制服姿の人は少なく、生徒の大体はクラス揃いのTシャツを着ている中で、メイドと執事は一際目を引くのだろう、痛いくらいの視線を浴びながら、包んだケーキとチラシが入った籠をぶら下げた私は黒田と騒めく校内を歩いていた。
店のケーキを1つ頂く代償に、チラシ入りの籠を持たされ教室から背中を押されて出てみれば、同じく柄の付いた看板を持たされ教室から追い出された黒田がそこに居て、始まったのは休憩とは名ばかりの宣伝行脚。
クラスメイトにはめられたのは本日2度目で、頼んだよ看板白黒コンビ!とか何とか言われたところでこんなの最早コンビ業じゃなくて単なるオーバーワークである。
多勢に無勢で私たちに拒否権なんかなく今に至るわけだけど、そんな状況も学園祭らしいとそれなりに楽しんでる私の横の黒猫執事は変わらず不機嫌オーラを放っていた。
「黒田、もうちょっと顔どうにかなんないの?
客引きになんないじゃん」
「知るかよ、好きでやってんじゃねーんだぞ」
「あ、よろしくお願いしまーす、
お店は3階ですニャン!
...これくらいしてみせてよ、やるからには」
「ぜっってーやだ
末代までの恥だろ、バカかよ千歳」
末代までとは大袈裟な。
愛想のカケラもない執事を引き連れてチラシを通行人に配りつつ、あみだくじのように下へ下へ降りていく。
1階に着く頃にはチラシは残り半分を切っていて、模擬店がたくさん出ている中庭に行けば全部配りきれそうなんだけど、黒田がこんな状況じゃあ...
「...黒田、中庭行かない?」
「はぁ?んな人多いとこ行くかよ」
だよね、言うと思った。
「あっ、そうだ!
模擬店の中に確か泉田くんのクラスの
たこ焼き屋さんがあったはずだよ
顔出すついでにたこ焼き食べよ!ねっ!」
「行くなら一人で行けよ、オレはその辺一周してくる」
「あっ、ちょっ、黒っ...もー!」
食べ物で釣る作戦は失敗に終わり、黒田は私を一瞥すると踵を返して人気のない裏庭のほうへ進んでいった。
掲げた看板がどんどん小さくなっていく。
泉田くんに見られるのが嫌だったのかも、しまった失敗した、なんて思ったところで黒田の姿は既に無い。白黒コンビは一時解散、こうなったら仕方がないし、自分の仕事を全うするだけだ。
一人になると尚更目立って少し恥ずかしい気もするけど、俯いたら負け。顔を上げて笑顔を作って混雑した中庭に私は足を踏み出した。
いざ行かん、泉田くんのたこ焼き屋台!
モノクロ*ノーツ 17
激おこぷんぷん丸 / 2017.11.04
激おこぷんぷん丸 / 2017.11.04