ついに明日、運命の期末試験が始まる。
初日の一限目は数学、苦手科目でどうにか点を取らなくてはと、私はいつもに増して必死に目の前の数字と格闘していた。
掛け算足し算割り算くらいが出来れば日常生活に支障はないだろうに、シグマとかシータとか将来使う機会は果たしてあるんだろうか。
なんて、教科書の中でしか見かけない記号に目を眩ませながら思うけど、それってただの現実逃避だ。
目当ての電車を駅のベンチで待ちながら、とにかく今はこの数式をやっつけなければ!念願のスマホデビュー、荒北さんとのLINE会話を目指して私はやる気に満ち満ちている。
荒北さんはどんなスタンプ使ってるのかなぁとか考えるだけで胸がほくほくする。動機は不純だけど、これで頑張れるならきっと結果オーライなんじゃないかな。
輝かしい未来に思いを馳せるのもほどほどに、改めて数字の羅列に視線を落として考える。それにしてもこの問題の解はどうしてこうなるんだろうか。巻末にある解答を見たってそこに至るまでの数式がないのでは話にならない。
答えが合っているのかじゃなくて、そこまでの道筋が知りたいんだよって心の中でテキストに語りかけるけど、当然そんなのに意味なんてなくて、はぁ、とため息が漏れる。
スピードも落とさず通過した新快速の電車が巻き起こした強風に吐き出したばかりのため息はかき消され、テキストのページがバラバラ震えた。

(あ、もしかしてこれはこう...うんうん、いい感じ!)
(ん?あ、違う、んん...?)

閃いたと思ったのに、やっぱり何か違う気がする。
頭を傾げながら私がそれに夢中になっていると、視界の端っこにちらりと動く影が見えた。
けどその時はただの通行人だとしか思わなくて、それを見ることもせず、私はテキストを見つめたまなおもうんうんと頭を捻っていた。
やっと違和感に気付いたのは影の主が隣のベンチに座ってからで、今日のホームは混雑してないしベンチだって空席はたくさんあるのに何でわざわざ私の隣に?恐る恐る顔を上げると、居るはずのない姿がそこにあった。

「えっ、荒っ、なっ...えぇ??」
「よォ、白崎チャン」

バサッと音がしてテキストは地に落ちた。
5日ぶりに会う荒北さんは何故か笑いを堪えながら、足元に落ちたテキストを拾い上げる。パラパラとそれに目を通して懐かしいなって呟いて、荒北さんはそれを私に差し出した。
今日は雨の日、じゃないよね...?
思わず線路の上を見上げたけど、空は晴天、夏模様。
だから今日はメールだってしてないし。
え?なんで?どうして荒北さんがここに、数列の魔法がみせる夢幻かな...
想定外の出来事に声を失って放心状態になった私は、まだこれが現実だとは思えないでいた。



AとJK 4-2
夏模様の夢幻 / 2017.10.05

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