私が彼の存在に気が付いたのは高校1年生の夏、通学バスから見る景色の中に彼はいた。

いつもの電車から降りて改札を抜け、いつものように総北高校行きのバス停を目指す。駅からそこまではたった数十メートルの短い距離なのに、日差しの下に晒されて一気に汗が噴き出してくる。
既に到着しているバスのステップを踏みしめて、乗り込んだ車内の左側一番前の席が私の定位置。ゆっくりと動き出したバスの車窓を流れる景色をぼんやり眺めるのが朝の日課になっていて、その日も私はそれを黙って見ていた。
目的地に近付いていくにつれ同じ制服に身を包み自転車を漕ぐ人が増えていく、その自転車を次々と追い抜いてバスは学校までの長い登り坂を登っていくのだ。

ーーー変わらない毎日、変わらない日常。

高校生になって数ヶ月、代わり映えのない日々に飽き飽きしていた私の視界を通り過ぎた緑色を初めて見た日、ありふれた日常が打破されたその日を忘れはしない。
似たようなスタイル、個性のない集団に紛れて一際目立つ緑の髪は、私の視線を釘付けにした。
細くて華奢な自転車に跨りペダルを回す彼の姿が横を通り過ぎて小さくなっていく、バスの大きなサイドミラーに映らなくなるまで私はそれを見送り続けた。
最初は単に好奇心から、髪の毛を染めるにしても何故あえて緑色なのか、それだけに飽き足らず何故赤のメッシュまで?
その存在を認識してしまえば退屈な日々の中に見え隠れする緑がやたらと目について、しまいに私は彼を積極的に目で追うようになっていた。
自転車通学者の大半がこの長い坂道をサドルから降りて歩くなか、彼は決して地に足をつくことなく校門までの登り坂を駆け抜ける。
それに気付いた頃にはもう好奇心だけではない何かが胸の中に芽生えていて、いつか私の視線に気付いて振り返ってくれたりしないかな、なんて私は毎朝彼の姿を見て願うほどになっていた。

今思えば、それが恋の始まりだったのかもしれない。



サイハテ 04
車窓に映る緑色 / 2017.10.02

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