頭の中に銀色がちらついて、それを払拭するよう作業に没頭した結果、熱中症で倒れそうになるなんてとんでもない失態だ。
あげく私の調子を狂わせた張本人に助けられる始末で、なんでこんな事に、私はどうかしちゃったんだろうか。
葦木場くんがこんな大事なときに変な事を言うのが悪い、その上黒田が私に親切にしたりするから余計。
そうだ、葦木場くんと黒田のせいだ!
全部を二人に責任転嫁して、昨日の失態を取り返すようにインターハイ3日目の今日、私は骨身を惜しまず働いた。
さりげなく私を手伝おうとする黒田はゴールまでの道中に置いてきて、最終日の今日も私はゴールで彼らの到着を待つ。
私が今出来ることは、中継を聴きながら情報を整理して纏めること。疲れきった選手を受け入れる準備をすること。はやる心臓を押さえつけ、ただ信じて祈ること。
マネジなんてレースじゃ無力だと悲観はしない、胸を張って前だけを見る。昨日黒田が言った通り、私もチーム箱学の一員なのだから。

連絡用に持たされた箱根学園の携帯電話が震えながら着信音を響かせて、それを取るのも慣れてきたはずなのに何故か妙に胸騒ぎがした。
通話ボタンを押して受話口を耳に押し当て聞こえてきたのはスプリントリザルトを新開先輩が獲った知らせと、

「荒北先輩が、リタイア...」

箱学が残り5人になった知らせ。
最終日は全員がゴール出来るわけじゃない、去年だってそうだった。チームのために誰かが落ちるのは普通のことで、わかってる、わかってたはずなのに涙が溢れそうになる。
まだその時じゃないでしょ千歳、涙は優勝した時の為に取っておかなきゃ。
ぐっと堪えてノートに聞いた情報を書き留めて、私はただ彼らの無事と勝利を祈ることしか出来なかった。

*

外から聞こえる歓声がだんだん大きくなっていく。
それはゴールの瞬間が近いこと意味してて、私は選手テントから飛び出しゴールゲートへ向かって駆けた。強い日差しが肌を刺す、炎天下で彼らはどれほど疲弊していることだろう。
力を振り絞って富士の5合目、最後の登りを駆け上がってくる真波くんに向かって力の限り、今年も箱根学園が優勝するんだって強い意志を胸に、ゴール前で待機していた箱学の集団に混ざって声援を投げかける。
私の声は届いただろうか、私達の想いは届くだろうか。
黄色のジャージと青のジャージが横並びのままゲート目前、その映像が私の目にはスローモーションのように見えた。車輪がグリーンのラインを踏みしめて、2台のロードバイクがゴールゲートをくぐっていく。
天を仰ぎ両手をあげて歓喜の叫びをあげたのはーーー

『総北高校、インターハイ総合優勝ぉ!!
 繰り返します、インターハイロードレース
 男子総合優勝は...』

高らかに鳴り響くアナウンスがこだましている。
茫然と立ち尽くす私の横を走り抜けて、総北のサポートメンバーたちが崩れ落ちる眼鏡の彼を支えに行った。
今日一番の歓声の中で、私たち箱学が集まる一角だけ時が止まっているような、そんな感覚に襲われる。
あぁ、負けた、負けたんだ...
現状を再認識して目頭が熱くなり視界がぼやけていく、その端に白の車体と青髪が見えた。
違う、駄目だ、私の仕事はまだ終わってない。

「っ真波にタオルとドリンクを!
 靴も脱がせてあげて!
 東堂先輩と福富先輩もきっとすぐゴールするよ、
 そっちの受け入れ準備も!」

落胆している暇なんてない、発破をかけるよう固まったままの部員たちへ指示を出す。まずは選手を労って、それから表彰式と、帰りの準備もしなくちゃ。ゴールゲートに背を向けて、私は重い足を一歩先へ踏み出した。
3日間かけて行われたインターハイの幕が閉じる。
じくじくと胸の奥が痛む、
その痛みを抱えたままーーー



モノクロ*ノーツ 12
ラストステージ / 2017.09.22

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