高層ビルが立ち並ぶオフィス街の、とあるビルの18階。
エレベーターから降り、右に曲がってすぐにあるこのフロアで一番大きな部署・企画事業部。そこが私の職場である。
小難しいビジネス用語が飛び交う話し声、至る所で主張する電話の着信音、キーボードを叩く音が途切れることなく、まるでBGMのようにオフィス内に流れ続ける。
私は今日もこのざわめくオフィスの中で、仕事用の眼鏡をかけ画面の中の資料と睨めっこをしていた。
ブルーライトカットの眼鏡をかけていれば少しは眼精疲労も楽になるかもなんて、そんなのは幻想だった。確かに少しは違うのかもしれないけど、PCに向かっている時間が長過ぎて、正直誤差の範囲内だと思う。
それでも何となくそれをかけてしまうのは、もはやルーチンワークの一部になってしまっているからなのかもしれない。
大きなガラス張りの窓にぶら下がるブラインドの隙間から一筋差し込む光がふと目に入って、固まった背中を伸ばしちらりと壁掛け時計を見上げると、いつの間にか昼休憩まであと少しになっていた。
キリもいいし、ここら辺で一区切りしておこうか。
眼鏡を外してフゥと一息、午前中ずっと酷使していた目を労わるように目を閉じる。
しかしそれもほんの数秒の出来事で。

「えー!嘘でしょ部長、嘘ですよね嘘って言ってー!」

パーテーションの向こう側、開け放たれた部長室のほうからつんざくような叫びが聞こえて私は思わず目を見開いた。聞き覚えのある声の主は恐らく私が教育係を務めた後輩だろう。
久々に何かやらかしたのかな...
嫌な予感を頭によぎらせながら、私は重い腰を上げて部長室へと急いだ。

「あんまりです、こんなのっ」
「行かないなら、この話はナシだぞ」
「っぐぅぅ」
「何事ですか、オフィスまで声が聞こえましたけど」

開いた扉を形だけノックして部屋の中を覗き込むと、窓に背を向けるように配置された部長のデスクに食い気味になって身を乗り出す私の後輩、佐久間の姿があった。
その向こうに座っている部長が呆れた表情を浮かべながら彼女の陰からひょっこりと顔出す。

「あぁ白崎、コイツがな、
 今度のプロジェクトの会議出張行くの渋ってんだよ」
「佐久間が行かないなら、
 私が代わりに行きましょうか?」
「ダメー!このプロジェクトに任命されたのは私です!
 絶対私が行きます!でもっ...
 会議の日程どうにか変えられませんかぁ...」
「先方の都合もあるし無理だな」
「そんなぁ...」

頑張り屋で情熱だけは人一倍のこの子が、会議の日程くらいで今にも泣き出しそうな顔をしているのはきっとただ事じゃないんだろう。
何がどうしてそうなったのかは知らないが、暗にひとまずここは私に任せて下さいと部長に目配せすると、部長は黙って頷いた。

「お、もう昼の時間だな」
「わ、本当だ、佐久間お昼行こう!
 部長、お先に昼休憩頂きますね」
「うぅ...はい白崎先輩...部長失礼します...」

軽く部長に頭を下げて、がっくりと肩を落とす佐久間の手を引き、私は部長室をあとにする。

今もなお私の胸の奥に眠る追憶を
この可愛い後輩が引き出してくれるだなんて
その時の私は思ってもみなかったんだーーー



サイハテ 02
事の発端 / 2017.09.20

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