朝の雨が嘘だったみたいに空は開けて、雲の隙間から太陽が顔を覗かせていた。
浅い水溜りもお構いなしに地面を蹴ると、パシャンと小気味よい音を立てて飛び散った飛沫がローファーを濡らす。
信号機が青に変わって富士の山を奏で始め、聞き慣れたその曲に合わせて私は足取り軽く横断歩道を渡りきった。気持ち早足になってしまうのは放課後が待ち遠しかったからで、目の前の駅舎を見ているだけなのに表情筋が綻んでしまう。
雨露に濡れている駅前のガードレールが光を反射しキラリと光って、なんだが目に映る全ての世界が輝いて見える。なんて、私は少し浮かれ過ぎているのかもしれないな。

はやる気持ちを抑えながらホームへの階段を登りきると、いつもよりも心臓がリズミカルに跳ねていた。早足のまま登りきったからなのか、ホームに彼の姿があるのを期待していたからなのかは分からないけど。
待ち合わせ、と言っていいのかな、一緒に乗る予定の電車が来るにはまだ少し時間がある。きょろきょろと周りを見渡したけど荒北さんの姿は無くて、ふぅ、と一つ吐息が漏れた。
荒北さんが来る前に少し身なりを整えようと、私は手櫛で軽く髪の毛を梳いた。
前回の失敗を生かして、今日は体育のあと入念にパウダーシートで汗を拭ったし、例え電車が混雑していて密着するようなことになったとしても大丈夫。今日の私に抜かりはない、はず。
あ、いやでもやっぱりどこかまだ見落としがあるかも...
一抹の不安がよぎってそそくさと自動販売機の横まで、物陰に隠れるようにして鞄の中からコンパクトミラーを取り出し、鏡の中を覗き込む。

「白崎チャン?」
「っんひゃ、あ、らきた、さっ...!」

背後からの声に驚いて変な声が出てしまった。
鏡に映る自分を見る間もなくコンパクトミラーは畳んで鞄の中に突っ込んで、後ろを振り返ると、んなとこで何してんのって笑う荒北さんがいた。

「久しぶり、元気だったァ?」

ビニール傘を片手に口角を上げている荒北さんは、黒い七分袖のレイヤードTシャツに細身のGパンというラフな出で立ちで、私の横を通り過ぎて回り込むとポケットから出した小銭を自販機に投入していく。

「おっ、お久しぶりです、荒北さんも元気でしたか?」
「ッハ、見ての通りだヨ」

チャリンチャリンと音を鳴らしながら直方体の機械が小銭を飲み込んでいって、代わりにペットボトルを1つ吐き出した。
それを拾い上げもせず荒北さんは更に小銭を追加して、再び点灯した自販機のボタンを指差しながら私を見る。

「白崎チャンはどれにする?」
「えっ?私は大丈、」
「ごー、よん、さん、にー、」
「あっ、あぁっ、えっと...レモンティー!」
「ン、了解」

容赦のないカウントダウンに焦って、私は目に付いた黄色のボトルの名を言ってしまった。
私が誘ったようなものなのに荒北さんに奢らせて、なんてことなの、どうしよう。
ゴドンッと大きな音がして、荒北さんは自販機の口から2つのボトルを取り出すと、黄色いほうを私に投げる。

「わっ、あっ、」
「ハッ、鈍いなァ白崎チャン
 電車来るまで時間あるし、
 茶ァ付き合ってよ白崎チャン?」

飛び込んできたペットボトルが生きの良い魚よろしく手の上で跳ねて、何度か落としそうになりながらも私はなんとかそれをキャッチした。
そんな私を見ながら青いボトルを手中に荒北さんは悪戯っぽく笑うと、ベンチのほうに歩いて行った。
受け取った280mlの小さなペットボトルを握り締めて、私は荒北さんのあとを追う。黄色のボトルを頬に添えると、それはひんやり冷たかった。

また荒北さんと目が合う前に、
熱くなった顔を冷まさなきゃーーー

荒北さんにお礼を言うのを忘れてる、
それに私が気付くのは、もう少し後の話。



AとJK 3-4
カウントダウン / 2017.09.12

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