午後には雨が上がるって白崎チャンが言ってた通り、窓の外がじんわり明るくなってきた。
時刻は16時を過ぎていて、4限が終わる時も近いのに壇上の教授の話はまだ終わりそうにない。
やべぇ、時間ギリかもしんねぇ。
合わせれるっつったのはオレなのに、遅れちまったらシャレになんねー。
机の上に広げていたテキストとノートだけ先に鞄の中にしまっておいて、その時目についた赤い袋の中から1つ飴玉を取り出して口ン中に放り込んだ。1日1個は食べるようにしてんのに、中々無くならねぇ甘ったるい球体を舌の上で転がしながら、これから会う予定の女の姿を思い出す。
メアド教えて以来会ってねェのに雨のたび、つーか今梅雨だからほぼ毎日だ、律儀にメールくれるせいか、オレは白崎チャンに妙な親近感を抱いちまってる。
そんな白崎チャンに一緒の電車だといいな、なんて可愛いこと言われたら、一緒に帰るしかないじゃナァイ?

『ーーー今日はここまで、次回テキスト20から』

簡単に噛み砕けるくらいに飴玉が小さくなった頃、やっと講義が終わりを告げた。
それをガリッと齧ると甘味の粒が口内に広がって、いちごの香りだけ残して溶けてった。
静かだった講義室が騒ついてきて、席を立って退室していく奴らもチラホラ見える中、前のほうに座っていた待宮が前髪を弄りながらニヤけた顔で近づいてくる。

「荒北ァ、金城ォ、今日自主練しよう思うんじゃが
 オマエらも一緒にどうじゃ?」

オレの前の列には金城も居て、通路側に座るオレの横で立ち止まると待宮が馴れ馴れしく肩なんか組んでくる。
近けェんだよバァカ、オレぁ急いでんだ、そこどけよ。

「オレも自主練しようと思っていたところだ
 付き合うぞ待宮」
「あー、オレは用事あるからパス」
「珍しいのぉ荒北ァ、何の用事じゃ?」
「っせ、テメェには関係ねーだろ邪魔だボケナス」
「...まぁええけどの
 ところで荒北、気になっとったんじゃが」
「アァ?」
「最近ベリィーなニオイさせよるのぉ
 なんじゃそのニオイ、エェ?」

そう言って待宮はわざとらしく大きく鼻で息を吸い込んだ。
それはさっき食ってた飴のニオイだ。白崎チャンに貰って以来、いつも部活の後に食ってたから待宮の嗅覚の記憶に残ってんのかもしれねェ。
弁明する前に、まだファスナーを締め切ってないオレのリュックのピッケルホルダーを持ち上げて、待宮はそれの中身を覗き込む。

「バッ、勝手に人の鞄ン中見てんじゃねェ!」
「いちごキャンディ!似合わんモン食っとるのぉ!
 箱根の野獣はいちごチャァンが好きなんか、
 エッエ!かわええの、ぶちかわええわ!」
「ッゼ!貰いもんだヨ...」
「嘘吐くなや荒北ァ、
 袋ごと寄越すヤツがどこにおるっちゅんじゃあ」

リュックからはみ出した赤い袋を指差しながら腹抱えて待宮はゲラゲラ笑う。嘘じゃねんだよそれが、つったって信じねーだろうけど。
いつもならブン殴ってやりたくなるところなのに、あの時の記憶が脳裏に浮かんで不思議と笑みが零れた。
飴は袋丸まま寄越すし、らくらくホンだし、ほんっと白崎チャンはオレを笑かしてくれるよなァ...

「ハッ!袋ごととか、ねーよなァ普通
 んじゃお先ィ」

待宮に構ってる場合じゃねェ、白崎チャンが待ってんだ。ファスナー閉めてリュック肩に引っ掛けて、変な顔した待宮を押しのけて講義室を後にする。
真っ直ぐ廊下を突き進んで中庭に出ると、傾きつつある太陽が雨上がりの空で眩しく光る。相変わらず無駄に広いキャンパス突っ切って、オレは目的地に向かって早足で進んでいった。

*

「...金城ォ、見たか荒北のあの顔」
「あぁ」
「何か怪しいのぉ...ニオウのぉ...」



AとJK 3-3
雨上がりの約束 / 2017.08.29

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