組み立てた自転車に跨ってクリートをペダルにはめる。
先頭を切って飛び出した先はさっき車で登ってきた坂道で、ゆるやかなカーブを描きながらオレたちは坂を下っていく。茂った木々の合間に見える透き通った青が光を反射してキラキラ光る。耳元を掠める風が心地良かった。

「福チャァン!まずは軽く1周でいいのォ?」
「あぁ1周目はそれでいい、
 2周目からケイデンスを上げていく
 先頭は5分毎に交代だ、各自路面状況に
 注意して走るように」

島をぐるっと回る20kmのコースを福チャンに言われた通りにひた走る。歩いてきた道を戻る時計回りのルート、あン時は気にして見てなかったが、改めて今見ると舗装されたアスファルトの隙間から雑草が顔を出していたり、時折ひび割れて段差になっているところもあった。
チャリで行けばフェリー乗り場はあっという間で、やっぱここでチャリ組み立てて行くのが正解だったじゃねーかと思いつつ、磯の香りが強くなった港を抜けると、平坦だった道が緩い上り坂になる。

「今回の合宿、なんか豪華過ぎじゃないか?」

このタイミングで先頭なんてついてないな、とかぼやきながら先頭に出てきた新開が早速パワーバーを取り出し、それを齧りながら言う。
軽く流してるとはいえ練習中だってのに、雑談なんて始めたら福チャンに怒られんじゃね?
ちらっと後ろの福チャンを見るが、珍しく福チャンは黙ったまんま、相変わらずの鉄仮面で交わされる話を聞いていた。

「そうなんですか?これが普通なのかと思ってました」
「真波は合宿初めてだったか、
 いつもは旅館で全員同室なのだがな」
「インハイメンバーだけだから、とかなんじゃねェの?
 福チャン、去年もこんな感じだったのォ?」
「いや...個室は初めてだな」

福チャンが何も言わず雑談に混ざんのにも驚いたが、インハイメンバー特別待遇っつー予想を覆されたのにもオレは驚きを隠せねェ。
じゃあ何で今回の合宿はこんなことになってんだ?大部屋より個室が安いなんてことはおそらくない。なのに個室ってことは、

「もしかして、訳あり宿だったりして」
「そういえばボク達の他に
 宿泊客は居なそうでしたね...」

脳裏によぎる可能性をあえて口に出さねぇでいたのに、空気読めよ真波...
それに乗っかって泉田が余計なこと言うもんだから、会話が途切れて沈黙に包まれる。

「伊豆湯けむり殺人事件」
「新開てめぇミステリー読み過ぎだろ、
 ンなワケあるかよ」
「普通に幽霊が出るんじゃない?」
「飾られた絵の裏にお札が貼ってある部屋には
 霊が出るとよく言うが...見たのか真波、
 まさかあったのではあるまいな真波ぃ!?」
「まだ見てませんよー、戻ったら見てみましょうか?
 みんなの部屋の額縁の裏」
「ア、アブゥ...」

それを打ち破ったのは新開の冗談にも似た言葉だったが、結局またオブラートに包みもせずに爆弾落としてくんだよ、この不思議チャンがァ!
どうすんだよこの流れ、東堂も泉田もビビってんじゃねぇか!あ、新開オメーもかよ、ちっちぇ声でどうしよう靖友とか言ってんじゃねーよバァカ!

「くだらねェこと言ってんじゃねぇぞ真波ぃ!
 何が幽霊だ、ビビってんじゃねーよボケナスッ
 なぁ福チャン!?」
「...オレは、強い!」

ーーーペダル回しながら、こんなに不安になったことは過去一度もねェ。
見下ろせば海、見上げれば晴天、最高のロケーションなのに、大丈夫かよ今回の合宿...



真夏の亡霊 4 / 2017.08.28

←3 back next 5→
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -